外縁天体の分布を説明するための惑星X
比較的円に近い軌道を持つEKBOの分布は、太陽から55天文単位付近の距離で突然終わり、その外側には離心率や軌道傾斜角が大きな散乱円盤天体 (SDO) が存在することが知られており、これは55天文単位より外側に火星と地球の中間程度の質量を持つ天体が存在するためではないか、という推測がある。
厳密に言えば、これは昔から言われている惑星Xとは別の仮説に基づいているため、旧来の惑星Xとは別物である。
カリフォルニア工科大学の研究者によって2002年、2004年、2005年にそれぞれ発見(または軌道が確定)されたクワオアーやセドナ、エリスといった天体は、質量が小さすぎるためにこういった新しい惑星X仮説には当てはまらない。
セドナについては新しい惑星X仮説と比較して距離も遠すぎる。
2008年には神戸大学のパトリック・ソフィア・リカフィカ研究員(当時:現近畿大学助教)、向井正教授(当時:現名誉教授)らが惑星Xの予想軌道を算出した[1]。
この予想軌道は、天王星や海王星はもともと現在の位置より内側で誕生し、木星や土星の重力による摂動で外側へ移動(ミグレーション)したという仮説に基き、現在の海王星の軌道付近で誕生した天体が海王星に押し出されるように外側へ移動したと仮定してシミュレーションしたものである。
「惑星X」の質量は地球の0.3 - 0.7倍(冥王星やエリスの質量は地球の約0.002倍)、直径は地球よりやや小さい程度、軌道傾斜角は20 - 40度、軌道長半径は100 - 175天文単位(ケプラーの法則に基いて計算すると、公転周期は約1,000 - 2,300年)で近日点は80天文単位以遠、近日点付近での明るさは14 - 18等とされる。
この予想に基づき、2009年秋から東京大学木曾観測所とハワイ諸島のパンスターズ1による探査計画が始動しており、仮説が正しくかつ条件が整えば5年以内に「惑星X」が発見される見込みである[2][3]。
ただし、2006年のIAU総会で決議された太陽系の惑星の定義には「自らの軌道上から他の天体を一掃している」という項目があり、カイパーベルトの外側に惑星サイズの天体が発見されたとしても、上記の項目に該当していなければ惑星とは呼べないことになる。

長周期彗星の起源を説明するための惑星X
EKBOやSDOより更に外側には、大小無数の氷天体が太陽を半径1 光年前後の球殻状に取り巻くオールトの雲があり、それらの氷天体の軌道が何らかの理由で太陽系中枢部まで達する長楕円軌道(または放物線・双曲線軌道)に変わったものが長周期彗星(または非周期彗星)だと考えられている。
軌道が変わる原因として銀河系円盤や太陽系の近くを通過する恒星、あるいは太陽の伴星などの影響が想定されてきたが、2010年にアメリカ・ルイジアナ大学の John Matese と Daniel Whitmire がオールトの雲付近に木星質量の4倍程度の大きさのガス惑星が存在し、長周期彗星の少なくとも一部はそれによって軌道を変えられたという説を発表した。
二人はこの天体を「Tyche(テュケー)」と仮称しており、もし実在するならNASA(アメリカ航空宇宙局)が2009年12月に打ち上げたWISE(広域赤外線探査衛星)の全天サーベイ観測によって発見できるはずだという。
なお、太陽系には既に“Tyche”と正式に命名された天体が存在する。

フィクションとの関連
一部の書籍に於いて、古代シュメール人が「ニビル」と呼んだ、約3,600年周期で太陽系と垂直方向の楕円軌道で動いている巨大な惑星が太陽系の中心部へ向かっていることが報告されている、とされている[4]。
これらの書籍では、1992年にNASAが「天王星と海王星の軌道の説明不可能な逸脱ぶりは、太陽から112億キロメートル離れた太陽系外縁部に、大きく傾斜した軌道上を進む地球の質量の4-8倍の巨大な天体の存在を示している」と発表した[4]、とされているが、NASAは公式ウェブサイトでニビルの存在を明確に否定している[5][6]。

脚注
^ 太陽系外縁部に未知の惑星の存在を予測(アストロアーツ・2008年2月28日)
^ 太陽系「惑星X」発見するぞ…長野・ハワイの天文台、観測スタート、読売新聞、2009年10月5日
^ 「惑星X」を探せ 海王星軌道の彼方、神戸大が本格探査、産経新聞(ITmedia)、2010年7月5日
^ a b マーシャル・マスターズ、ジャニス・マニング、ヤッコ・ファン・デル・ウォルプ/著、宮本俊夫/訳『2012年に地球最接近! 惑星Xが戻ってくる―大変動サバイバルガイド』徳間書店、2009年
^ 2012年地球滅亡説は「でっち上げ」、NASAが異例の声明発表、AFP BBNews、2009年11月10日 ^ 2012: Beginning of the End or Why the World Won't End?、アメリカ航空宇宙局、2009年11月6日

関連項目
太陽系の形成と進化
惑星
冥王星
セドナ (小惑星)
エッジワース・カイパーベルト散乱円盤天体
オールトの雲
ネメシス (恒星)
バルカン (惑星)

架空の惑星一覧
仮説上の天体
日本惑星科学会
外部リンク
SEDS on Planet X
Planet X: No Dynamical Evidence in the Optical Observations - ジェット推進研究所の E. Myles Standish, Jr. による1993年の論文。
修正された惑星質量を用いると軌道の摂動はなくなることを示した。
神戸大学大学院理学科 惑星科学研究センター プレスリリース太陽系近くに「未知の巨大天体」が存在?(「WIRED VISION」2010年12月1日)
新たな「第9惑星」発見はいつ? NASAが疑問に答える(「アストロアーツ」2011年2月21日)
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<太陽系近くに「未知の巨大天体」が存在?> 2010年12月1日 サイエンス・テクノロジーコメント:(57)トラックバック (0) フィード サイエンス・テクノロジーAds by google NASAスタッフと学べる大学 - 3/12(土)NCN航空宇宙工学セミナー 高校からアメリカの大学へ直接進学 Lisa Grossman 対数目盛を用いて表わした、太陽系の天体配置モデル。 右側の白いもやのような部分がオールトの雲。 Image credit: NASA 過去100年分に及ぶ彗星のデータを分析したところ、太陽系の最外縁部に「木星サイズの質量を持つ天体」が存在し、それが地球へ向けて彗星を飛ばしていることを示唆する結果が得られた。 ルイジアナ大学の惑星科学者、John Matese氏と同僚のDaniel Whitmire氏は1999年、太陽には未発見の伴星があり、それがオールトの雲(太陽系の外縁部に球状に広がるとされる仮説的な小天体群)にある氷の塊を内太陽系に向けて飛ばしているものが、彗星として観測されているのだとする説を唱えた。 この説は、ギリシア神話の恐ろしい女神の名にちなんで『ネメシス』と呼ばれる暗い褐色矮星または赤色矮星が、約3000万年ごとに地球に彗星の雨を降らせ、生物の大量絶滅を引き起こしているという説に対応するものだった。 しかしその後の研究では、地球における大量絶滅の周期はネメシスに関する予測と一致しないことが示唆され、現在では研究者の多くが、ネメシスの存在には懐疑的だ(日本語版記事)。 Matese氏とWhitmire氏は今回、1898年までさかのぼる観測データを新たに分析した結果、当初からの説を一部裏付ける証拠を得た。 それは、地球から観測できる彗星の約20%が、遠方にある未知の1つの天体によって送り込まれていることを示すものだという。 つまり、地球に害をなす死の星ではなく、より小規模で穏やかな天体が、オールトの雲から地球に向けて彗星を送り込んでいる可能性が浮上したのだ。 彼らはこの天体を『テュケー』と呼んでいる。 ギリシア神話の幸運の女神で、ネメシスと結び付けられる存在であるテュケーにちなんでのことだ。 地球にやって来る彗星は通常、オールトの雲の中に存在しているものが、何らかの力が外から加えられることによって軌道がそれたものと考えられている。 その場合のシナリオとしては、 1) 天の川銀河の円盤の引力が、彗星を氷だらけの生まれ故郷から引っ張り出して内太陽系に向かわせているか、 2) 恒星が高速でそばを通過する際に、オールトの雲から彗星をはじき出しているか、あるいは、 3) ネメシスやテュケーのような大きな伴星が、彗星を引っ張り出しているかのいずれかが考えられる。 研究チームは、小惑星センター(MPC)のデータベースに収められている彗星100個あまりの軌道を調べた結果、オールトの雲で誕生した彗星の80%は、銀河の引力によって押し出されたという結論に達した。 しかし残りの20%は、木星の約1.4倍の質量を持つ遠方の天体によってはじき出されたという計算になった。 しかし、1つ問題がある。 彼らの見出したパターンは、球状に広がるオールトの雲のうち外縁部に存在していた彗星にしか当てはまらないのだ。 オールトの雲は、太陽から約0.3?0.8光年の距離に広がっていると想定されている。 オールトの雲の内側の、より平坦なドーナツ型をした部分では、それと同じ明確なパターンは発生しない。 [オールトの雲は、太陽系を球殻状に取り巻いていると考えられる仮想的な天体群。 オランダの天文学者ヤン・オールトが、長周期彗星や非周期彗星の起源として提唱したのでこの名がある。 概ね太陽から1万天文単位、もしくは太陽の重力が他の恒星や銀河系の重力と同程度になる10万天文単位(1.58光年)の間に球殻状に広がっているとされる。 その存在は、彗星の軌道長半径と軌道傾斜角の分布の統計に基づく状況証拠のみであり、想定される領域に天体が直接観測されたわけではないので仮説の域を出ないが、仮説を否定する証拠も現在のところ無い。 10の12乗というオーダーの数の天体が含まれると推測されており、水・一酸化炭素・二酸化炭素・メタンなどの氷が主成分と考えられている] テュケーのような天体が存在していた場合、米航空宇宙局(NASA)の広域赤外線探査衛星『WISE』等によって直接観測される可能性があるとして期待されている。 [WISEは2009年12月14日に打ち上げられた探査衛星で、地球から525kmの太陽同期軌道をほぼ円を描いて進み、10ヶ月のミッションで11秒ごとに150万枚の画像を撮影。 全天を観測する。 WISEでは、例えば「太陽系にもっとも近い恒星であるプロキシマケンタウリ(約4.2光年)よりも近い距離に褐色矮星が発見される」かもしれないと期待されている] オールトの雲から来た彗星『Siding Spring』。 2010年1月に『WISE』が撮影。 Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA [日本語版:ガリレオ-高橋朋子/合原弘子] |
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<表面温度が数百度しかない、もっとも低温の褐色矮星の発見> 【2010年6月30日 JPL】 これまで知られている中でもっとも低温と思われる星が発見された。 見つかったのは、表面温度が摂氏180~330度ほどしかない褐色矮星だ。 太陽系周辺に同種の天体は数百個存在している可能性が示唆されており、今後の観測次第では、わたしたちの描く太陽系周辺の光景が一変するかもしれない。 ![]() スピッツァーによる、これまででもっとも低温と思われる褐色矮星の1つ「SDWFS J143524.44+335334.6」(画像中央の赤い点)。 クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech) ![]() 太陽系周辺における褐色矮星の分布をシミュレーションした画像(白・赤・黄:太陽をはじめとする恒星、暗い赤:存在が予想された数百個の褐色矮星、緑;スピッツァーが今回観測した領域)。 クリックで拡大(提供:AMNH/UCB/NASA/JPL-Caltech) NASAの赤外線天文衛星スピッツァーが、表面温度が摂氏約180~330度ほどの褐色矮星14個を発見した。 似たような低温の天体は、これまで片手で数えられるほどしか見つかっていない。 その温度は、むしろ恒星のまわりを回る惑星の温度に近いが、これまでに知られているもっとも質量の小さな褐色矮星は、木星の5~10倍ほどもある。 NASAジェット推進研究所のDaniel Stern氏は、「褐色矮星は、ある意味で惑星に似ていますが別のものです。 それこそが興味深い点なのです。 惑星ほどの質量の天体を研究するにはもっとも適しています」と話している。 褐色矮星は、質量が小さいために核融合反応を起こして自ら光り輝くことがないので、長年その観測が難しかった。 しかし、昨年末に打ち上げられ、現在赤外線による全天サーベイを行っているNASAの赤外線天文衛星「WISE」が、今後同様の天体を数多く発見してくれるのではないかと期待されている。 NASAジェット推進研究所でWISE計画にたずさわる科学者Peter Eisenhardt氏は「WISEは、あらゆる領域をくまなく見ています。 もっとも低温の褐色矮星も次々に発見されるでしょう。 太陽系にもっとも近い恒星であるプロキシマケンタウリ(約4.2光年)よりも近い距離に褐色矮星が発見されるかも知れません」と話している。 スピッツァーが発見した複数の低温天体は、スペクトル型がT型(表面温度が摂氏1200度以下)に属すると考えられている。 T型よりさらに低温のY型も存在が予測されており、いまだ発見されていないのだが、今回スピッツァーが発見した14個のうちの1つがY型かもしれない。 褐色矮星の研究で世界的に知られるDavy Kirkpatrick氏は、Y型の褐色矮星が本当に存在していれば、WISEによる発見は可能だとしている。 同氏によると、WISEは、太陽系の果てに存在する氷に覆われた海王星サイズの天体を発見する能力を備えているという。 そのような領域に発見される褐色矮星は、太陽の伴星であるかもしれないとの推測もある。 さらにKirkpatrick氏は、「2600万年周期で太陽に接近する仮想の特異天体が『Nemesis(ネメシス)』と呼ばれていますが、それに対して、理論上存在が予測されているこの褐色矮星をわたしたちは、『Tyche(テュケー)』と呼んでいます。 しかし、まだその存在につながる証拠はひじょうに限られています。 WISEは、その存在の有無に答えを出してくれるでしょう」と話している。 なお、スピッツァーが発見した14個の天体は、地球から数百光年の距離に位置しており、地上に設置された望遠鏡で分光観測をするには、あまりに遠い。 しかし、スピッツァーによる発見は、太陽から25光年の範囲内にまだ100個以上も同様の天体が存在することを示唆している。 そのような距離ならば、分光観測による確認も可能だ。 今後の観測によって、わたしたちが描く太陽系周辺の光景が一変するのかもしれない。 |
(ももいちたろう)