<続き>
アノニマス氏からのEメール#12
http://serpo.dip.jp/serpo2/serpo2.htm
これは、アノニマス氏によって投稿された12番目のメールの内容です。
※このeメールは、いままでアノニマス氏がeメールを送っていた相手であるヴィクター・マルチネス氏ではなく、サイト管理者のビル・ライアン氏宛に直接送られました。
(訳注:以下は明らかに文体が違いますが、#11のコマンダーの日記の続きです)

私は、地球の夢を見た。コロラド・山・雪・私の家族のリアルな夢を見た。
まるで本当にそこにいるかのようだった。
私の状況については何の心配もなく、この宇宙船のことなど忘れていた。
その後目が覚めると、私は混乱して方向感覚を失った。
私は、ボウルの中に居た。いや、それはボウルの様なモノに見えた。
私は、どうやってここに来たのか全く覚えがない。
最初に考えたのは、チームメンバーのことだ。
このガラスのボウルを押してみると、ボウルは開いた。
継ぎ目から漏れるようなシューシューという様な音が聞こえた。
あたりを見回すと、何かの部屋の中だと分かった。見覚えのない部屋の中だ。
でも、チームメンバーは皆ガラスのボウルの中にいて、皆眠っていた。
ひどく足が痛んだが、ボウルの中から這い出して、チームメンバーをチェックした。
11人しか居ない。誰かが居ない。誰が居ないのだ?混乱していて分からない。
喉が渇いてしかたないが、水筒も何も見つからない。確かにあったのだが、何処にもない。
目の焦点がうまく合わないが、これを書かねば、、全てを記録しなければ。
人数を数えた。彼は生きている。誰かが行方不明だ。全部のボウルを確認しなければ。
この部屋は大きい。天井はまるでマットレスのようだ。壁も柔らかい。
部屋には、ボウルとそのボウルと床を繋ぐチューブ以外の物は何もない。
ボウルの底でランプが点滅しているのが見える。
天井には明るい照明がある。内側はマットレスみたいな物だ。
他のボウルを開けようとしたが開かない。
いろいろと試してもダメだった。
イーブ人の助けが必要だ。
ドアがあったが、開かない。
他のドアをどうやって開けたのか全く覚えがない。
我々は、どのくらいこのボウルの中にいたのだろうか?
全く記憶がない。
宇宙旅行は、人の心に問題を引き起こすのだろう。
彼らは、訓練期間中にそんな事を言っていたが、誰も宇宙旅行には出かけたことがなかったじゃないか。
我々はいい見本だ。
ボウルに戻った方が良さそうだ。
少し早く目が覚めてしまったようだ。
腕時計を見ると18:00だ。
でも、何日? 何月? 何年?
分からない、どれだけ眠っていたのだろうか。
床は柔らかそうで、ワイヤーが十字模様に走っている。
部屋の片隅には、テレビ画面みたいな物がある。
きっとボウルの状態をモニタする物だろう。
画面を見るが、イーブ語なので分からない。
画面上には、健康状態を示すと思われるラインが見える。
皆が息をしているといいのだが。
でも、誰かが居ない。
何を忘れているのだろうか?
誰が死んだのだろうか?
ダメだ、思い出せない。
手を見ると、発疹がある。熱い感じがある。
放射線熱傷か何かのように見える。
バックパックの中にあった放射線モニターは何処にあるのだろう?
我々のサバイバル・パックは何処にあるのだ?
何も見つからない。
ボウルの中に戻って横になろう。
この日記も終わりだ。



また目が覚めた。
イーブ人達が部屋に入ってきた。
私のボウルは開いているようだ。
チームメンバーの何人かは既に歩き回っている。
イーブ人達は、彼らを介助してくれている。
ボウルから出よう。
英語が話せるイーブ人が居たので、チームメンバーは大丈夫なのか尋ねてみよう。
彼は分かっていないようだ。大丈夫か?
私は、メンバーを指さして、11人だと言った。12人目は何処だ?
イーブ#1は、空になったボウルを指さして、地球人は生きていないと言った。
(訳注:イーブ1号ではなく、ここにいるイーブ人)
それは分かった、誰かが死んだんだ。でも、誰?
チームメンバー達は、混乱した様子で歩き回っている。
みんな、落ち着いてくれ。
彼らは、死人のように歩き回っている。
彼らはどうしたんだろう? イーブ#1に彼らがどうしたのか尋ねてみた。
イーブ#1は、宇宙病だが、すぐ良くなると言った。
OK、分かった。
あとどれくらい掛かるのか分からない。
まだ飛んでいるが、あとどれくらい掛かるのだろうか。
イーブ#1は、飲み物とビスケットの様な物を持ってきた。
飲み物は、チョークのような味だし、ビスケットは何の味もない。
皆はそれを食べ、飲んでいる。
すると、すっと気分が良くなってきた。
OK、頭がハッキリしてきた。
全員を集めるように203に伝えた。
308が行方不明だ。
彼が死んだのだろう。
イーブ#1が戻ってきて、308のところへ案内してくれた。
彼は、ボウルか棺桶のような物の中にいた。
700と754が308を検査しようとした。
イーブ#1は、308を出してはいけないと止めた。
意味が分からない。
700と754はここにいる。
私は、イーブ#1に、700と754は医者であり308を調べる必要があると伝えた。
しかし、イーブ#1は、感染するからダメだと言った。
私は、308がある種の伝染性の感染症で死んだのだと思った。
308は本当に死んだのか?分からない。
イーブ#1は、我々にアドバイスをくれた。
700と754は、ボウルを覗き込んで調べたが、308は死んでいるようだった。
他のメンバーは、大丈夫そうだ。
先ほどの飲み物とビスケットは、エネルギー補給用なのだろう。
我々は、目の焦点も合わせられるし、正常な思考も出来る。
どうやってこの部屋に入ってきたのか、誰も覚えていないようだ。
我々の装備は全てここにある。
皆、自分の状態について心配している。
イーブ人達は親切だが、あまり多くを語らない。
899は、この部屋に閉じこめられている事が心配だという。
633と661は、任務に集中しようと言った。
私もその意見に賛成だ。
私は、皆にバックパックと食糧ベルトを装着するように伝え、荷物の目録を作り、何が無くなっているか調べる様に言った。
これには暫く時間が掛かった。
時計を見ると、午前4時だった。
しかし、日付も何曜日も分からない。
時間が測定出来ないとは、なんて異常事態だ。
この部屋や宇宙船には時間が分かるものがない。
しまい込んである荷物の中から精密な時計を取り出せれば、日付は分かると思う。
だが、何処にしまわれているのか誰も分からない。



全員が、バックパックの中身と食糧ベルトの目録を作成した。
全て調べ上げた。
899は、ピストルで武装したいと希望したが、私はダメだと言った。
我々には武器は必要ない。
イーブ人達は、とても親切だ。
コンパスを取り出してみたが、うまく動かない。
無線機を取り出して、ベルトに装着した。
この室内で無線機が使えるのかは分からなかったが、スイッチを入れると正常に動作した。
お互い通信が出来る。いいぞ、これで交信ができる。
でも、バッテリーは2日ほどしか持たないので、注意しなければ。
私は、メンバーに私のように日記を書くことを提案した。
私は出来るだけの日記を書くように命じられていた。
でも、日付が分からないし、一日がいつ終わるのか分からない。
661が、ここにいる間、我々のカレンダーと時間システムを作ることを提案した。
いいアイデアだ。そうすることにしよう。
カレンダーは、7日制とした。
腕時計を使って24時間を計測し、それを1日としよう。
06:00を始まりとする。それまでにまだ45分ある。
518は、エアーモニターをセットした。
我々は「通常の空気」を呼吸しているようだ。
チームは、「通常の空気」という518の言い方をおもしろがった。
ユーモアがあるのはとても良いことだ。
OK、午前6時、一日の始まりだ。
661はカレンダーの記録を始めた。
もっと前からこうすべきだった。
我々は、何日間この船に乗っているのか、何日間旅行しているのか全く判らなくなった。
我々は司令室に入ったのか?いや、たぶんそれは夢で見た事だろう。
日記の最初の部分が見あたらない。




イーブ#1が入ってきて、間もなくこの旅が終わると言った。
彼は我々を宇宙船の別の場所に案内した。
さまざまな物がある巨大な部屋に入った。それぞれが何だか判らないが、チェストのように見える。
我々は、食事が置かれたテーブルに案内された。
イーブ#1は、我々に「美味しいですよ、食べてください」と言った。
我々はお互いの顔を見た。
700と754が、皆に食べようと言った。
OK、皿を手に取った。ずっしりと重たい陶器のような皿だ。
まず、シチューのようなものを選んでみた。
それと、以前食べた事があるビスケットを取った。
飲み物は、金属製の容器に入っていた。これも以前飲んだことがある。
みんな食べ始めた。
シチューは、とてもとても薄い味付けだ。
ジャガイモ、キュウリ、何かのクキ、そんな感じの物が入っていた。
正直、マズい。
ビスケットも同じ味だった。
皆、座って食べた。
リンゴのような物を見つけたが、全く違う味だった。
甘くて柔らかい。私はそれを食べた。
口の中一杯に広がる。
チームは、幸せそうだった。
誰かが、デザートのアイスクリームは無いのかと冗談を言っている。
OK、MVCはこの部屋にいる。
最初、彼と会ったとき、彼はイーブ#1を通して話をしていた。
彼らの言葉は耳障りだった。
非常に高いピッチの変な音の様な声、奇妙だ。
イーブ#1は、着陸に備えるようにと伝えてきた。
OK、どうしたらいい?
例のボウルに入らねばならないのか?
そうであっても、誰も入りたくはなかった。
我々は、ボウルに入らねばならないようだ。
そうしなければならないのだが、誰も入りたくはなかった。
我々は、この部屋を出てボウルの部屋へ案内された。
仕方ないボウルに入ろう。
腸と膀胱の安心のために、ポットを使っておこう。
その後でボウルに入ろう。
フタが閉まったが、我々はまだ起きている。
少し横になって寝ることにした。




ボウルのふたが開いた。
時計を見ると午前11時。たぶん1日目だ。
ボウルから、はい出した。
イーブ#1が外にいて、着陸すると伝えてきた。
OK、もうそこまで来ているのだ。
我々は、装備品をまとめた。
700は、外に出るときにはサングラスを着用するように指示した。
我々は、荷造りをし、長い廊下を降りて別の部屋へ移った。
あと1分で到着。
ドアが開くと、そこは大きな部屋の中だった。
そこには我々の装備品が格納されていた。
とても大きな部屋、ここには小型の宇宙船が何機も格納されていた。
更に大きなドアが開いた。
明るい光が入ってきた。
ついに、我々は初めてこの惑星を見た。
下り坂を下っていく。
大勢のイーブ人達が出迎えてくれた。
その中に、ひときわ背の高いイーブ人が居た。
彼は、我々の方に歩み寄って来て話しを始めた。
イーブ#1は、リーダーらしきこのイーブ人の言葉を通訳してくれた。
恐らく彼がリーダーなのだろう。
他のイーブ人より1フィート(約30cm)ほど背が高い。
そのリーダーは、歓迎の意を示し、何と言ったか判らないが何かを叫んだ。
イーブ#1の通訳は、イマイチだ。
我々は、広いアリーナへと案内された。
見たところ、パレード用のフィールドのようだ。
地面は未舗装で土のままだ。
見上げると、青い空が一面に広がっていた。
非常に晴れ渡った空。
見ると、2つの太陽があった。
片方は、もう一方より明るく輝いている。
ここの風景は、アリゾナかニューメキシコの砂漠地帯のようだ。
見える範囲に植物は生えていない。
不毛の地面だけが丘のように広がっている。
我々は、中央の村か町と思われる大きな送電塔の様な建造物のある場所に着陸した。
これらの塔の先端に何か鎮座している。
村の中心部には、ひときわ大きな塔があった。
それらはコンクリート製のように見えた。
非常に巨大で、恐らく300フィート(約90m)はあるだろう。
何か鏡のような物が塔の先端に置いてある。
建物はどれも日干しレンガのような物で出来ているように見えた。
大きな建物もあった。
コンパスが読めないのだが、ある方向を向くと更に巨大な建造物があった。
宇宙船にいたイーブ人達を除くと、イーブ人達はみな同じ衣装を着ていた。
他と違って、ダークブルーの衣装を着たイーブ人達もいた。
どのイーブ人達も、ベルトをしており、そのベルトには箱のような物が装着されていた。
皆が同じ背格好で、子供らしき者達は見あたらない。
地面には、我々の足跡が残った。
外はサングラス無しでは耐えられないほど明るい。
周囲を360度見渡すと、建物と不毛の砂漠だけが見えた。
全く植物がない。彼らは、何処で作物を作っているのだろうか?
なんという惑星なんだ。
我々はここで10年間生活をしなければならないというのか!
誰が言ったのか思い出せないが、千里の道も一歩からというではないか。
それに、大勢のイーブ人達が、我々を歓迎してくれている。
彼らは誰もみな親しみやすそうだ。
驚いたことに、誰かが我々に英語で話し掛けて来た。
チームメンバーが周りを見ると、一人のイーブ人がいた。
このイーブ人は、流暢な英語を話すのだ。
このイーブ人(イーブ#2と呼ぶ)は、Wの発音が出来ない事を除けば、とても流暢な英語を話した。
イーブ#2の英語はとても役立った。
イーブ#2は惑星セルポを自由に見ても良いと言った。
OK、セルポとは彼らの惑星の名前だ。
イーブ#2は、我々にある装置を見せて、全員が常にこれを装着するようにと伝えてきた。
一見すると、それはトランジスタラジオのように見えた。
我々は、各自のベルトにそれを装着した。
ここの気候は、かなり猛暑だ。
633に気温を測るように指示をすると、41℃あると言った。
かなり暑い。
我々はジャケットを脱いで、フライトスーツだけになった。
イーブ人達は、とても親切に感じられる。
何人かのイーブ人は、ショールのようなものをまとっている。
それについてイーブ#2に尋ねると、その者らは女性であるということだ。
OK、わかった。
イーブ人達の外見は、誰もがそっくりで区別できない。
ユニフォーム以外でイーブ人を見分けることが出来ない。
何人かは、違う色のユニフォームを着ている。
イーブ#2は、彼らが軍人であると教えてくれた。
OK、納得した。
イーブ#2は、我々を日干しレンガで作った様な小さな建物へと案内した。
全部で4棟あった。
その後ろには、地下室や貯蔵庫などがあり、地下で繋がっていた。
傾斜路を下って行く。
ドアは、地球で我々が原爆を保管する軍のイグルー(訳注:アラスカ、イヌイットの氷の家みたいなモノ)のように見えた。
宇宙船から運び出された我々の装備品は、全てそこに保管されていた。
我々はそこへ降りていった。
大きな部屋だ。とてもとても涼しい。
我々はここで眠らねばならないかもしれない。
全ての装備品は16個のパレットに載せられてここにあった。



このイグルーは、コンクリートのような材質で造られているようだ。
表面の感触は柔らかいが、中はとても固い。
床も同じ材質で出来ている。
天井にはスポットライトのような明かりがある。
まず我々は、全装備品の目録を作らねば。
小屋へ戻る。
小屋の中は外よりは涼しいが、それでもまだ暑い。
我々は少し頭の中を整理したいと思う。
イーブ#2に、ゆっくり考えたいので、我々だけにして欲しいというと、イーブ#2(女性だと思う)は、OKと言った。
私は、308の遺体の返還をしてほしいと伝えた。
イーブ#2は混乱したようだが、遺体については知らないようだ。
イーブ#2は、彼女の腕を胸の前で交差させ頭を下げた。彼女は泣いているようだ。
イーブ#2は、遺体を我々のところに運んでくると言ったが、彼女はトレーナーに確認を取るといった。
トレーナーという言葉は、ちょっとショックだった。
イーブ#2は英語を勉強中で、誰かが彼女に教えているのか?それともイーブ語でトレーナーという言葉は英語とは意味が違うのだろうか?
たぶんリーダーかコマンダーのことなのか? 判らない。
ともかく、イーブ#2は帰って行った

私は、下の貯蔵庫で全員を集めるように203に指示し、そこで会議を開いた。
633は今日からカレンダーを開始させる事を提案した。
現在13時00分、これが惑星セルポでの第1日目だ。

アノニマス氏からのEメール#13a
http://serpo.dip.jp/serpo2/serpo2.htm
これは、アノニマス氏によって投稿された12番目のメールの内容です。
※このeメールは、アノニマス氏がeメールを送っていた相手であるヴィクター・マルチネス氏ではなく、サイト管理者のビル・ライアン氏宛に直接送られました。
(訳注:以下は明らかに文体が違いますが、#11のコマンダーの日記の続きだと思われます)

我々には、深刻な問題が残っていた。
我々の科学技術に関する知識をイーブ人達に伝えなければならないのだが、アインシュタインもケプラーも知らない彼らにどうやってそれをつたえればよいのだろうか。
単純な数学は、彼らには必要はないようだ。
イーブ#2(女性)は、とても知的に見える。
彼女は、1つか2つの地球言語を理解するようだし、更に我々の基礎数学を理解しているらしい。
我々は、非常に簡単な基礎数学から始めた。
「2+2は?」
そこから開始して徐々に進化させてみた。
もちろん彼女は理解し、我々が援助しなくとも次々と解いていった。
彼女が、1000×1000までの計算を繰り返した時、我々は彼女のIQの偉大さに驚いた。
次に、我々は彼女に計算尺を見せてみた。
彼女は、計算尺に書かれた記号の全てを理解していなかったようだが、それでも僅か1~2分で計算尺が何であるのかに気付いたようだった。
彼女は実に素晴らしい。我々は彼女に素晴らしい素養を見た。
恐らく、ここにいる間は、彼女との接触が最も多くなるだろう。
誰もが彼女の心の暖かさに惹かれた。
彼女は、本当に親身になって我々の世話をしてくれた。
初日の夜、彼女は全てが正しい選択であった事を感じさせてくれた。
彼女は、我々に光と熱について注意するように言った。
惑星セルポは、地球のように暗くならないと言うのだ。
彼女が地球のことを何故知っているのか不思議に思った。
彼女は地球に来たことがあるのだろうか?
たぶん、地球のことを教育されたのだろう。
彼らは地球について書かれた本でも持っているのだろう。
ともかく、初日の夜、彼女は吹き荒れる風に注意するようにと警告してくれた。
その風は1つ目の太陽が隠れた頃に始まるということだった。
この風は我々の小屋へと容赦なく吹き付けた。
この様に最初の夜は大変だった。
我々は「夜」と呼んでいたが、イーブ人達には一日の区切りだという風に見えた。
イーブ#2は、「一日」という言葉は知っていたが、地球での一日と比べる事はしなかった。
たぶん彼女は地球に来たことはないのだろう。
その夜はあまり眠れなかった。
イーブ人達は、我々のような眠り方はしないようだ。
彼らは、区切り時間ごとに休息をして、その後再び起きて仕事をするという感じだ。
なんというか、我々が目覚めた時、イーブ#2は我々の小屋の外にいたのだ。
私がドアを開けると、彼女はそこで待っていたのだ。
なぜ?
どうやって彼女は我々が目覚めたことを知ったのだろうか?
たぶん我々の小屋は、何種類かのセンサーでモニターでもされているのだろう。
イーブ#2は、食事の「場所」と案内してくれた。
彼女は、「ダイニングルーム」「食堂」「施設」という言葉ではなく「場所」という言葉を使った。
まずはチームを招集し、反対側の村(便宜上「村」と呼ぶ)へと歩いて行き、大きな建物に入った。
大きいというのは、イーブ人達の背丈を基準にした言い方だが。
中では、食べ物がテーブルの上に置いてあった。
私は、ここを「食堂」と呼ぶことにする。
イーブ人達は、一瞬我々を見たが、そのまま食事を続けた。
彼らは、自分達の家の中では調理をしないのだろうか?
皆がここで食事を取るようだ。
我々は、テーブルへと歩いて行った。
食事は、我々が宇宙船内で食べた食事とは異なっている。
大きなボウルにフルーツのようなものを盛ってあった。奇妙なものだ。
カッテージチーズのようなものがあったので、最初に試食してみると、食べている内に少しすっぱいミルクのような味がした。大丈夫だ。
私は、チームメンバーに食事を始めるように勧めた。
我々は食事を取った方が良いだろう。
しかし、700は日に一度はイーブ人らの食事を食べて、他は我々の持参したCレーションを食べる様に言った。
そうする事で、イーブ人の食事を我々の体に順応させようというのだ。
我々は、地球サイズと比べるといくぶん小さいテーブルとイスに座って食べた。
ここにはイーブ人が100人ほどいるようだが、皆食事をしており、特に我々を気にしていないようだった。
ときどき我々をじっと見ているイーブ人もいた。
我々が異端であって、彼らはそうではない。
我々は訪問者であり、外国人であり、彼らにとって我々は異様に見えるのだろう。
我々はそれぞれ外見が異なるが、彼らはみな同じような外見をしている。
どうやって彼らを見分けようか。出来そうにない。
我々は彼らをじっと見つめた、彼らも我々をじっと見つめた。
そうして外見の違うイーブ人を見つけた。
ずいぶん変わった姿をした生き物だ。大きく長い腕、長い足で殆ど浮いているようだ。
イーブ人ではない。
我々全員が、じっとそれらを見ていた。
この生物は、浮いているように見える。
イーブ#2を見つけた。彼女は、他の3人と食事をしていた。
彼女に近づくと、立ち上がってお辞儀をした。
これは彼ら流の挨拶だ、覚えておいた方がよさそうだ。
私は、先ほど見たイーブ人とは違う種類の様な「生物」について彼女に尋ねしてみた。
(訳注:「生物」は「creature(クリーチャー)」という単語が使われていた。一般にこれは知性ある人に対して使う言葉ではない。)
イーブ#2は少し混乱したようで、「生物」とは何かと聞き返した。
私は、「生物」という言葉を使った。
もしかすると、それは侮辱だったのかも知れないが、単に知らない単語だったのかも知れない。
私は、建物の反対の方を指さした。
彼女は、私の言わんとしていることに気付いた様だ。
イーブ#2は、私の尋ねた者達はイーブ人ではなく、我々と同じ訪問者だと言った。
なるほど、そうだったのか、彼らもここに来ている訪問者だったのだ。
私は、訪問者は彼らだけではないと思い、どんな惑星から訪問者が来ているのかをイーブ#2に尋ねてみた。
イーブ#2は、「コルタ(CORTA)」という様に言ったようだが、よく聞き取れなかったので二度聞き返したが、それでもよく聞き取れなかった。
OK、その「コルタ」は何処にあるのかを尋ねた。
彼女は、私を建物の隅に置いてあったテレビ画面のような装置の前へと案内してくれた。
それは、何かの指令ステーションのように見えた。
彼女はガラス面に指を置くと、何かが現れた。
宇宙なのか? 星系図のようだが、見覚えがない。
彼女は、一点を指さして「コルタ」だと言った。
OK、では、地球は何処にあるのか尋ねてみた。
彼女は別の一点を指して、地球はここだと言った。
この画面で見る限り、コルタと地球は非常に近いのだが、そもそもこの地図の尺度が分からない。
たぶん何兆マイルもあるだろう、いや何十光年かもしれない。
でも、コルタと地球は近くにあるようようだ。
チームの科学者にこれを見せなければと思った。
OK、私はイーブ#2に感謝をすると、彼女は嬉しそうだった。
彼女は、まるで天使のようだ。ほんとうに素晴らしい人だ。
彼女は私の手を取り、テーブルを指して、食事を続けてくださいと言った。
美味しく食べられるかな?
私は、この食堂で美味しそうな食事を頂きますと笑って答えた。
彼女は、ちょっと困ったような仕草を見せた。
彼女は「食堂」の意味が分からなかったようだ。
私は、建物を指し示して、食事を食べる場所だと説明した。
彼女は、私に続いて「食堂」と繰り返した。
私は微笑みながら歩いていった。
彼女は、地球では全てのレストランを「食堂」というのだと思っているに違いないだろう。



我々は小屋に戻った。
もう少し効率的な仕組みが必要だと思ったので会議を開くことにした。皆納得しているようだ。
まず用を足す為の便所についての問題。
イーブ#1が近づいてきて、(彼らは本当に我々の心を読んでいるのか?そうかもしれない)、小屋にあるポットを見せると言った。
皆はそれが何であるか疑問に思ったが、OK、それが我々の便所なのだ。
でも、それでは我々が使うには、幾分具合が悪い。
ポットの中には何かの化学物質が入っているようで、我々の排泄物は、それによって溶かされるようだ。
なんというべきか、OK、4つの小屋それぞれにポットを1つづつ持ってきてくれるように頼んだ。
しばらくは使えるだろう。
イーブ#2は、「地面を歩くように」と言った。
その意味は図りかねたが、420は、「あちこちを見て回れと」いう意味だろうと言った。
OK、そうする事にしよう。
私は225とチーム102を組織した。
633と661には、例のテレビ画面の星系地図を見てコルタが何処にあるのか判断して欲しかった。
518には、気温の測定と気象観測全般を頼んだ。
ここはとても暑い所だ。かなり暑い。60℃以上あるのではないのだろうか?
754は、放射線濃度が高いので、太陽からの放射線に注意するように言っている。
あまり嬉しい警告ではない。
私は、ネバダ州での事を思い出した。
1956年の原子爆弾のテストの時の事だ。
その時も炎天下で、我々は原子爆発からの放射線に注意しなければならなかった。
今、我々は40光年の彼方の見知らぬ惑星に居る、そしてまた暑さと放射線か。
それでも、我々はここに我々が送り込まれた理由を探索しなければならない。
我々は調査の為に歩き始めた。475は軍用カメラでの撮影を行う。
私は、フィルムが放射線の影響を受けないように祈った。
どうやったらよいのだろうか。
たぶん、我々は全ての場合を考えなかったようだ。
私は、225と協力した。
我々は、大きなドアの開いたビルに入ってみた。
そこは教室のような雰囲気だが、イーブ人達はいない。
壁一面に大きなテレビ画面のようなモノがあり、画面上で光が点滅している。
我々は、画面を調べてみた。それは非常に細かいものだ。
これがどの様な原理で動いているのか分からないが、真空管、いや電子機器のようだ。
我々より遙かに進んだテクノロジーのようだ。間違いない。
その建物には、他には触れるものは無かった。
更に進む。おっと、かなり暑い。
大きなタワーを見つけた。
一見するとアンテナ塔のように見えるが、大きな鏡が付いている。
昨日、最初に降り立ったとき、私はこれを見た。
イーブ人がドアの近くに立っているを見つけたが、彼はもう一方へ行ってしまった。
彼が英語を話せるようなら、彼に聞いてみよう。
彼は我々をじっと見つめるだけだが、とてもフレンドリーな感じだ。
どうやら彼は英語が分からないようだ。
我々は建物に入るが、階段らしきものがない。
しかし、丸いガラスの部屋のようなものがいくつかある。
たぶんエレベーターのようなものだろう。
ふと英語が聞こえたので振り向くと、そこにイーブ#2が立っていた。
彼女はどこから来たのだろうか?
私は、この建物をよく見てみたいと彼女に頼んだ。
彼女は、いいですよと答え、ガラスの部屋を指さして上へ行けると言った。
ありがとう、我々はガラスの部屋へ入った。
ガラスのドアは閉じ、そして凄いスピードで上昇して、あっという間に頂上に着いた。
それにしても、これは何だろうか?
イーブ#2にここが何かと尋ねた。
彼女は太陽を指し、そして鏡が置かれた部屋の最上部を指し、更に地面を指した。
OK、我々はそれを見た。
タワーは、円の中心にあった。円は地上にある。
円を四等分したそれぞれは、シンボルのようだ。
太陽光は、直接この鏡を通る(この鏡は我々が知っている様な鏡ではないようだ)。
そして太陽光は、円の上にある各シンボルへと照射されるようだ。
イーブ#2は、光がシンボルの上に来ると、イーブ人達は「変化する」と言っていたが、それが何を意味するのか分からない。
たぶん、彼女が言いたいのは、イーブ人達が何かを行うかという事だと思う。
225は、日時計の様な物だろうと言っている。
太陽光が、各シンボルに当たると、イーブ人達は今やっていることを止めて、別の何かを行うという事だろう。
恐らくこれがイーブ人達の一日を構成しているのだろう。
たぶん日時計で間違いないと思う。
奇妙だ。だが、我々は異星人の惑星にいる。
私は、まだ自分が冗談を言う余裕があることが嬉しい。
まだこれは初日だ。いうなれば初登校の日だ。まだ学ぶことは数多い。
我々は、広い心で考えなければならないと思う。
単純に地球のモノと比較していてはいけないのだ。
我々は、心を開いて新しい事を考えると同時に科学的でなければならない。
これら多くのことは我々と無縁も知れないが、我々は学ばねばならないと思う。
私は、腕時計を指し、それから地表を指して、これが時間を表すモノであることをイーブ#2に見せた。
彼女が理解したのかどうかははっきりしないのだが、私は、「時間」「彼女」そして「理解」と言った。
彼女は、はいと答えて、「イーブ時間」と言い、地表を指さした。
私は再び腕時計を指して「地球時間」と言った。
イーブ#2は微笑んで、「いいえ、セルポでの地球時間」と言った。
OK、判ってくれたようだ。
225は、彼女が地球時間はセルポでは意味をなさないと話したと言っていた。
何がここで時間を計るのに良いのだろうか。腕時計は使えそうにない。
我々は、イーブ時間を使い始めなければならなかったが、我々は10年後に帰還する事を忘れる事は出来ないので、我々の時間も維持しなければならなかった。
10年が100万年のように感じた。イーブ時間での100万年だという意味だが。そうでないことを祈りたい。
しかし、帰宅することを考えている「時間」は無い、我々にはこなさねばならない任務がある。
我々は派遣された軍のチームであるという事を忘れてはならない。
225と私は、ガラスのボウルに戻って地表へと戻った。
別の建物へと移動した、これも大きい。
中を見ると、数多くの植物が取り巻いているのが見えた。
どうやらこちらは温室のようで、彼らは作物を育てているようだ。
大勢のイーブ人達が中にいて、我々を見た。
我々は、中に歩み寄った。
一人のイーブ人が近づいてきて、イーブ語で何か話しかけてきた。
彼は天井と我々の頭を指している。
たぶん落下物に注意しろと言っているのだろうか。イーブ#2を探さないと。
我々は外に出て、イーブ#2を見つけた。彼女はいつも近くにいる。
そうか、理由が分かった。彼女は、我々がベルトに付けている装置で我々の動きをモニタしているようだ。
私は、この建物についてイーブ#2に尋ねてみた。
彼女は、食物を作っている場所だと言った。
OK、もしかしたら我々はその場所を汚染してしまったのかも知れない。
我々は、彼女に先ほどのイーブ人が天井と我々の頭を指したと話した。
イーブ#2は、混乱したようで、我々と共に先ほどの建物に入った。
数人のイーブ人がイーブ#2と話をしていた。
イーブ#2は、我々が入るためには頭にカバーを付けなければならないと伝えてきた。
何故かは判らないが、特に尋ねはしなかった。
我々は、イーブ人の布を着用して、見て回った。
イーブ人達は、楽しげだった。彼らの植物を観察した。
彼らは、土壌で作物を育てている。散水装置もあった。
各植物には、透明な布のようなものが掛かっていた。
私は、散水装置を指して、それは飲料用水かと尋ねると、イーブ#2は、はいと答えた。
すると彼女は我々の喉が渇いている事を察して、別の入口へ案内すると水を差しだしてくれた。
たぶんそれは水だったと思うが、味はやや化学薬品のようだったが、確かに水のようで、とても美味しかった。

アノニマス氏からのEメール#13b
http://serpo.dip.jp/serpo2/serpo2.htm
これは、アノニマス氏によって2006年1月28日に投稿された13番目bのメールの内容です。
※このeメールは、いままでアノニマス氏がeメールを送っていた相手であるヴィクター・マルチネス氏ではなく、サイト管理者のビル・ライアン氏宛に直接送られました。

イーブ人達のリーダーは、他のイーブ人達より背が高く、彼は他のイーブ人よりアグレッシブだ。
私がアグレッシブと書いても、それは攻撃的とか敵対的という意味ではない。
彼はボスの様で、私のような指揮官のようだ。
何を言っているのかは判らないが、彼の声は他のイーブ人達とは違って厳しい口調だ。
203は、リーダーは威厳があると言っている。私もそう思う。
彼は我々にとても好意的で、我々の要望をよく聞き入れてくれたが、我々に様々なものを要求した。
我々は大半は要請に応じたが、中でも奇妙なもののひとつは我々の血液だった。
彼は、我々全員に血液サンプルの提出を要請した。
イーブ#2は(彼女の見解ではあるが)、血液サンプルの提出は、我々が治療を受ける必要がある場合に、あらゆる治療が施せるよう予め血液サンプルを採取しておく必要がある為だったということだ。
しかし、700と754は血液サンプルが別の目的で使われるのではないかと感じているようだ。
我々は、彼らに308の遺体を実験のために使用することを認めた。
ログ3888に書いたとおり、彼らは、私の許可無く308から血液サンプルを取っていた。
その時、イーブ人達との間に緊張が走った事があった。
我々が308の遺体があった建物に向かったとき、数人のイーブ人がいて、我々はイーブ#1に308の遺体を返還して欲しいと説明をした。
イーブ#1は、遺体が保管庫に入っており、引き渡しはできないと伝えてきた。
それでも、我々は遺体を引き取りたいとイーブ#1に伝えた。
我々11人の内6名は、イーブ人達の横を通って建物に入っていったが、イーブ人達は、我々を止めようとはしなかった。
建物中には数種類のコンテナがあり、いずれも特殊なロックが掛かっていた為、我々はどの容器も開けることが出来なかった。
その中に308の遺体が納められていると思われる容器を発見した。
899に格納庫から少量の爆薬を持ってくるように命じ、それを使って開ける事にした。
イーブ#2がリーダーと共にやって来た。
イーブ#2はとても礼儀正しく、我々に暫く待って欲しいと言った。
彼女は、「お願いします」と何度も言った。実際に、彼女は英語で「お願いします(訳注:"Please")」という言葉を使った。
我々は少し引き下がって、我々の友人の遺体を詳しく調べたいので、遺体を返して欲しいとイーブ#2に話した。
イーブ#2は、そのことをリーダーに伝えた。通訳には随分時間が掛かったようだ。
最終的に、イーブ#2は大変申し訳なさそうな表情で、我々に別の場所へ行き、別のイーブ人医師に308の遺体の事を話して欲しいというリーダーからのメッセージを伝えてきた。
イーブ#2は、308の遺体について我々が知りたいあらゆる事をそのイーブ人医師から説明すると英語で話した。
私は、899と754に遺体を監視させた上で、他の者がイーブ人医師がいるという場所へ行きたいとイーブ#2に伝えた。
イーブ#2は、リーダーにその事を通訳した。ふたたび通訳には長い時間がかかった。数分は掛かっただろうか。
結局、イーブ#2は我々全員がこの建物を出てイーブ人医師の事に行って欲しいと伝えてきた。
私は「ノー」と言い、308の遺体を残しては行けないと伝えた。対立状態になりそうな予感がした。
私は、518と420に至急戻ってピストルを持ってくるように命じた。
私は、私のこの決定についてイーブ人の許可を貰うつもりはなかった。
イーブ#2はこれを聞くと、彼女の手を私の胸に当て、待って欲しいと懇願した。
イーブ#2に、この事をリーダーに通訳するように求めた。そして再び長い通訳が行われた。
その後、イーブ#2は、リーダーがこの状況について話し合うためにイーブ人医師をここへ連れてくると伝えてきた。
イーブ#2は、私の部下が武器を取りに行かないように懇願した。
確かに武器は要らない、我々は話し合いで解決しなければ。
イーブ#2に、武器を取りには行かないと伝えたが、308の遺体を確認するまでここを動かないとも伝えた。
リーダーは、ベルトに付けられた通信装置を操作すると、約20分ほどで3人のイーブ人医師達がやって来た。
彼らの内の一人は、とても流暢な英語を話した。彼は、奇妙な声(人間とほぼ同じ)で話した。
この医師は、イーブ#1/#2の様な甲高いアクセントはなかった。
私は、この医師にとても感銘を受けたと同時に、彼がこの18ヶ月間何処にいたのか不思議に思った。
我々は彼を見たことがなかったのだ。
この医師は、308の遺体はこの容器の中にはないと言った。
彼らは、この様な検体を持つことは初めてでありとても光栄なことだと考え、308の遺体を研究用に使ったのだった。
医師らは、彼らのクローン人を創世するために308の遺体を使用したのだと言った。
私は、医師の説明を制止し、308の遺体は惑星地球アメリカ合衆国の財産であり、イーブ人の財産ではないと伝えた。
私は、遺体に対する宗教上の理由から308の遺体を使ったいかなる実験も許可していなかった事を説明した。
私は、単なる実験の為だけなら308の遺体を使用する許可を与えるつもりだった。
まず、308の遺体を見せてくれるように要求した。
するとこの医師は、遺体は既に無くなったと説明した。
彼が言うには、全ての血液と臓器は取り出されて、クローン人を創世するために使用したと言った。
この「人」という言葉は、心底我々を震い上げさせた。中でも899はかなり怒っているようだ。
彼は医師の名をののしるように叫んでいたので、落ち着くように諭し、203に彼を建物の外に連れ出すように命じた。
私は、これが大問題になるのではないかと不安になったが、そうならないようにする事はできそうになかった。
我々はわずか11人なので、もしイーブ人達が我々を収監するとか殺そうとするのは容易なことだと思ったが、イーブ人達はその様なことはしないと思っていた。
私は、この事件が悪い方向に進まないように祈った。
私は、イーブ人達が308の遺体に行った事について、我々ができる事はあまり無いと悟った。
イーブ#2は、かなり動揺していたが、「皆が正しくあらねば(訳注:Everyone should be nice)」と話した。彼女は、よくこの言葉(訳注:"nice"という単語)を繰り返した。
イーブ#2も、この問題がこれ以上こじれないように祈っていたようだ。私は、イーブ#2に申し訳ないと思った。
彼女は、この問題を収めようと努力してくれた。
203は、取り合えず部屋へ戻って我々だけで会議をしようと提案した。
私は、308の残った遺体とその後の実験についてはいかなる干渉もして欲しくないとリーダーに伝え、リーダーの顔を指さした。
イーブ#2は医師と共に通訳をしていた。
その医師(とても率直な人物)は、これ以上何もしないと伝えてきたが、しかし、遺体はほんの僅かしか残っていないという事だった。
イーブ#2は、客人である我々がとても動揺している事をリーダーが心配しているとも話した。
また、我々が激しく怒った事で、リーダーも動揺していたとも伝えてきた。
リーダーは、我々をこれ以上動揺させたくないし、もう遺体に関しては一切何もしないと約束をしてくれた。
私は、イーブ#2に深く感謝し、リーダーにもそう伝えてくれるように頼んだ。
我々は自分たちの部屋へと戻った。
この件では、全員が動揺を隠せなかった。(特に899が)
私は、メンバー全員に落ち着くように伝えた。
私は、我々11人は軍人であるという事を忘れないように説明した。
我々はイーブ人達と戦うことなどできないのだ。
我々はイーブ人と争うために40光年の旅をしてきたのではないのだ。
これは我々が勝ち得なかった戦争なのか。
我々は、イーブ人らを単に拳で殴ることすらできなかった。
ええ、恐らく彼らに暴力で訴えることはできたであろうが、しかしその後はどうするのか。
我々は我々の置かれた現状を理解し、適宜に行動しなければならないのだ。
私は、各メンバーに今の状況を再考して、308の遺体については追求しないように命じた。
633と700には、英語を話すイーブ人医師にクローニングの手法について聞き出すように命じた。
彼らが遺体で行った実験の全てを調べてみよう。
イーブ#2が我々の部屋へやって来たので、633と700が308の遺体を調査しに行った事を伝えた。
彼らは、イーブ人らが308の遺体で行った研究も調べる予定だった。
イーブ#2は、非常に心配しているようだった。
我々は既にこの星へ来て久しいが、それでもイーブ人達の顔の表情を見極めるのは難しいと感じている。
イーブ#2は、最初に承認を得なければならないと答えた。「承認」という言葉をイーブ#2が使ったのは初めてだ。
彼女は、我々の言葉を聞きながら学んでいるのだろうか。恐らく彼女は、我々の言葉をピックアップして使っているのだろう。
私は、イーブ#2に、彼女が許可を取りに行くのは構わないが、我々はこの惑星に到着した際に自由な行動を約束された事を話した。
イーブ#2は、彼女がリーダーと直接話をすると言った。
その間にも633と700は、イーブ人の研究所での実験に使う機材の準備を進めていた。
我々の時計で、約80分後にイーブ#2は戻って来た。
イーブ#2は、私の部下達が研究所に行くことに問題はないと伝えてきた。
私自身も同行することにした。
私と633、700は、イーブ#2の案内で研究施設に行くことになった。
彼らの研究所にはいるために、彼らのヘリコプターのような乗り物を呼び、それに乗って行かねばならなかった。
コンパス(いわゆる本物のコンパスではなく我々が参照用に作った物)を見る限りでは、我々は北へと飛行しているようだった。
その研究施設は、イーブ人のサイズからすれば随分大きな物で、窓のない学校のような建物だった。
我々は屋根の上にある着陸ポイントに降り立ち、傾斜路に沿って下った。
確か、以前にも記録したが、この惑星では、ハシゴや階段の類は使わないようで、傾斜路(訳注:いわゆるランプ)を使っている。
我々は白い壁の部屋へ到着した。更にそこから廊下を通って別の部屋へと移動した。
その部屋で、英語を話す医師と会うことが出来た。
他にも青っぽい色スーツ状の服を着た大勢のイーブ人達が居た。以前書いた事があるスーツとは違っている。
その医師は、この建物で行われている実験について説明をしてくれた。
彼らはここを研究所とは呼ばず、単に「建物」と呼んでいた。
ここはクローンを創成するためだけに作られた建物だった。
我々は、別の部屋へ案内された。そこにはガラスの水槽のような丸い容器が並べられていた。
それぞれの水槽の中には、「体」(訳注:複数体、原文では'Bodies'。'Body''体'という意味と同時に'遺体'という意味もある)が入っていた。
かなり衝撃的な光景だった。
「体」
奇妙な見かけの「体」。少なくとも人間ではない。
我々は、その水槽のような容器の間を歩きながら、その水槽を調べてみた。
中身は、いずも化け物のように見えて恐ろしかった。
私は、イーブ人医師に中に入っているのは、どの様な生物なのかを尋ねてみた。
イーブ人医師は、これらの生物は、他の惑星からやってくると言った。
700は医師に、これらの生物は生きた状態で来るのか死んだ状態で持って来るのかと尋ねた。
医師は、生きた状態でこの惑星にやってくると答えた。
700は、それら生物がさらわれてくるのか、彼らが望んでくるのかと尋ねた。
医師は、「さらわれる」という言葉の意味が正しく把握できなかったようで、困惑して逆に意味を質問してきた。
700は、これらの生物が別の惑星で、その惑星のリーダーの許可無く捕まえられて、惑星セルポに連れてこられるのかと尋ねた。
医師は、これらは実験のためにここへ持ってこられると答えた。
これらの生物は知的生物ではないという事だった。
イーブ#2は、「動物(訳注:アニマル)」という言葉を使って説明した。
なるほど、判った。
これらの全ての生物は、他の惑星から連れてきた来た動物達だ。
イーブ人医師は、「動物」という言葉は理解していなかったようだ。
イーブ#2は、医師に動物という言葉について説明をしたところ、医師は、これらは動物であると言った。
私は、他に知的生物がこの建物にいるのかと尋ねてみた。
医師は、「はい」と答えたが、惑星セルポに到着した時には既に死んでいたと言った。
700は、その生物を見たいと頼んだ。
イーブ人医師は、「生物」ではなく「知的な存在」であると修正した。
私は、その生物が人間のような動物であろうと想像した。
まず最初に、この容器の中の生き物について書き留める。
それらは、それぞれ違っていて、全て同じではない。
最初の水槽の生物は、ヤマアラシの様に見える。
その中からチューブが出ていて、水槽の下に置いてある箱につながっている。
2番目の生物は、怪物のようだ。
大きな頭、深く沈み込んだ大きな目、耳はなく、歯がない口が見える。
大きさは約5フィート(約1.5m)、2本の下脚がある。足という感じではない。
腕は2本だが、肘があるようには見えない。また手には指はない。
この生物にもチューブが通っている。
次の生物は、なんとも言いようがない異様な感じだ。
血のように赤い皮膚、中央には2つの点、恐らく目があったのだろう。腕も足もない。
また、非常に変な臭いがした。
皮膚は、目盛のようなしみだらけだ。恐らくは魚のようなものだろう。
次の生物は、人間のようだった。
しかし、皮膚は白い。白人という意味ではない、色が白いのだ。
皮膚にはしわが寄っていた。
2つの目、2つの耳と口、大きな頭部。首は非常に短い。
頭部は、まるで胴体の上に座っているようだ。
胸部は薄く、突起のような骨が見える。
腕は曲がっていて、手には親指がない。
足は、3つのつま先だけで、やはり曲がっていた。
これ以外の生物は見なかった。
我々は、廊下を通り傾斜路を歩いて、別の部屋へ移動した。
そこは病室の様な部屋だった。
以前に説明した事があるイーブ式のベッドが沢山並べられていた。
それぞれのベッドには、医師が言うところの「知的生物」が居た。
医師は、それぞれの生物は十分に世話をされているので元気に生きていると話した。
700は、これらの生物が病気なのかと尋ねた。
イーブ#2は、それを翻訳しようとしたが、医師は「いいえ、みな生きている」と言った。
我々3人は、「生きている」という言葉にぎょっとした。
私は医師が何を言おうとしているのかイーブ#2に尋ねてみた。
イーブ#2は、医師に尋ね、「成長している」という言葉を使って説明した。
700は、医師にこれらが前に聞いたクローン人であるのかと尋ねた。
医師は、「はい」と答え、それぞれの生物は成長中であると、イーブ#2と同じ「成長」という言葉を使って説明した。
754は、それらが植物のように成長するのかと医師に尋ねた。
医師は、「はい」と答え、「良い例えです」と言った。
700は、それらがどの様に成長するのかと聞いた。
医師は、他の生物の特定の部分が、これらを成長させるために使われると答えた。
医師は、うまく英語で説明できないと言った。
700はイーブ#2に、成長する過程を説明できるか尋ねてみた。
イーブ#2も説明する為の英単語をよく知らないと答えたが、血液と臓器を混合した物をこれら生物の中に注入すると言った。
これがイーブ#2が英語で説明できた全てだった。
私は、700に一度戻って420を連れてくるように命じた。
420が来るまでの間、我々はこれらの生物を観察した。
彼らは呼吸をしていた。
彼らは、人間そっくりだった。
彼らの内の2体は、人間に見えるが頭部は犬のようだった。
彼らは、眠っていた。もしかしたら薬物を投与されていたのかも知れない。
暫くして、420がやってきた。
私は、420にこれらの生物の成育方法について通訳ができるか聞いてみた。
420は、イーブ#2と話をした。420は、よくやってくれる。
我々はここに地球時間で約18ヶ月滞在しているが、420は彼らの言語をよく習得していたようだ。
420は、他の生物の成長過程で細胞から採取した物質と化学薬品を混合した物をクローンの体内に注入すると言った。
それは420が説明することが出来た全ての事だった。
420はイーブ#2が使った言葉の一部を知らなかったようだった。
しかし、細胞という言葉は分かったそうだ。
それからイーブ#2は、若干の物質が細胞内部から採取されると話した。
700と754は、細胞から採取した物質は、細胞膜なのか染色体なのかと尋ねた。
イーブ#2は、それを医師に通訳した。
両者はその英語がよく理解できていなかった為に混乱したようで、これ以上の過程を説明できないと言った。
700は、"生物学的" "細胞膜の抽出" "促進" という言葉を使ったが、イーブ#2も医師もそのプロセスについては何も知らないようだった。
私は、754に彼らが何をしたのかを理解できそうか尋ねた。
754は、ヒト細胞が細胞膜より小さい構造物を含んでいると言っていた。
これは地球の技術ではないが、754は地球を出発する前にこれに関する情報を学んだようだ。
しかし、754はイーブ人達が行った様に生きた細胞を成長させる事は地球の技術では不可能だと考えている。
イーブ人達は、細胞を成長させて生命体内部に注入する方法を見つけたに違いないと思われた。
700と754はこれは地球上には無い技術だと言った。
私は、次に308の遺体が生命体を作るのに使われたのかを医師に尋ねた。
医師は、「はい」と答えてその生命体を見せてくれた。
私はもちろん、700と754も衝撃を受けた。
我々のチームメイトの血と細胞から作られたこの生命体は、大きなイーブ人のように見えた。
しかし、手と足は人間にとてもよく似ていた。
彼らは、どうやってこれほど早く成長させてのだろうか。
いうまでもなく明らかにこれは我々の知識より進んでいる。
私は、私が見たかったものの全てを見ることができた。
私は、医師にもう帰りたいと伝えた。
イーブ#2は、私が動揺している事を察知し、私の手をそっと握った。
すぐ私は言いしれぬ不安に駆られた。
イーブ#2は、私が見たものについて本当に心配していた。
イーブ#2は、我々に帰るように言った。
我々は、二度と見たくないこの建物から出た。
私は、この文明の暗黒面を垣間見た。
イーブ人達は、我々が思っているような人道的な文明ではなかったが、彼らは包み隠さず我々にそれを見せてくれたし、医師は正直に我々に話をしてくれた。
彼らは、ウソをつけないのだろうか。
我々がこの惑星にいる限り、我々の見た事が彼らへの印象を変えるだろう。

<続く>