http://www.kanekashi.com/blog/2014/10/3385.html?g=131205
まさに風前の灯ですね。
<転載開始>
安倍政権が進める国家戦略特区の中には、「農業特区」もある。現在、農業特区の指定を受けているのは新潟市と兵庫県養父市の2箇所である。中でも、人口2万6千人弱の養父市には、竹中平蔵をはじめ、菅官房長官、小泉進次郎etc多くの自民党議員が訪れ、政権の並々ならない熱意が感じられる。
安倍政権を手先として使う金貸しは、日本の農業特区によって何を狙っているのか。
■養父市の農業特区計画
「中山間地の農業改革拠点」と位置づけられている養父市の農業特区では、どのような政策・事業が進められようとしているのか。
養父市国家戦略特別区域計画(素案)より
(1)農業委員会と市町村の事務分担に係る特例 (農地等効率的利用促進事業)
① 7月4日付の養父市と養父市農業委員会との同意に基づき、養父市内全域の農地について、農地法第3条第1項本文に掲げる権利の設定又は移転に係る同委員会の事務の全部を、養父市長が行う。【次回国家戦略特区諮問会議において審議し、直ちに実施】(2)農業生産法人に係る農地法等の特例(農業法人経営多角化等促進事業)
② 有限会社新鮮組(愛知県田原市)が中心に関連事業者の支援を得つつ、養父市内の農家等とも連携した上で、農地法等の特例を活用した新たな農業生産法人を設立し、郷土料理や地域の農産物を活用した商品開発、農家レストランにおける販売等を行う。【年度内を目途に設立】③ 株式会社マイハニー(養父市)が、農地法等の特例を活用した農業生産法人
となって、耕作放棄地でれんげを栽培し、養蜂業を行う。【8月を目途に設立】④ やぶパートナーズ株式会社(養父市)とオリックス不動産株式会社(東京都港
区)が、養父市内の農業者と連携し、農地法等の特例を活用した新たな農業生産法人を設立した上で、有機野菜等の生産・加工・販売等を行う。【年度内を目途に設立】
つまり、農地転用や権利移転の許可権限を農業委員会から市長に移譲することで円滑化した上で企業による農業参入を進め、民間活用型の農産物レストラン等と連携させて中山間地農業を第6次産業化させるというものだ。これによって市内の耕作放棄地の有効活用も可能になるという。これだけならば、日本の農業の再生に繋がる可能性を持った政策とも考えられる。しかし、そこには、日本の農業を逆に壊滅させかねない大きな陥穽が仕掛けられている可能性がある。
■農業特区が外資支配の入り口になる
神州の泉に、その懸念点がまとめられている。
勘違いされないように言っておくが、農山漁業生産地における6次産業化は非常によい試みだと思っているし、日本の僻地・僻村に限らず、地方自治体全体もその方向へ進むべきだと思っている。ローカルな地場産業を機能的に有効活用する6次産業、つまり異種職能の集約化と、日本全体のダイナミックな産業構造がフラクタルなシナジー効果を出す産業構造社会は望むべき方向性の一つだと思う。
ただ、地場産業のこの素晴らしいファンクションが、グローバル資本の遠隔操作で動く傀儡政府の繰り出す法律とマッチング(抱き合わせ)したとき、地方の破滅と農業従事者たちの農奴量産につながることが見えてくる。素人レベルで感じることは、例えばその猛悪な法律はPFI改正法や農地バンク法である。
結論を先に言ってしまうと、農業の岩盤規制にドリルの刃を当てることによって、生産地の6次産業化はハゲタカ資本の効率的な餌場(えさば)となってしまうのだ。日本農業・漁業の持続発展は日本国民の健康維持や食糧安保の観点から重大事である。作物も海産物も日本人を養う大事な供給物である。これは最大の知恵を振り絞って、農地の生産性を高め自給率を上げることと育てる漁業を目指していく必要がある。
しかし、貪欲なグローバル資本は日本の食糧の砦にも食指を伸ばしてきている。それが国家戦略特区の農業にかんする特区なのである。養父市の農業特区が動き出したことは、この規制緩和が全国的に波及して行くことを意味している。今、人口2万6千人の養父市が、その突破モデルになろうとしているのだ。
農地バンク法とは、農地を貸し借りしやすくする「農地中間管理機構」、いわゆる「農地バンク」を各都道府県に新たに設置し、耕作されなくなった農地をまとめて意欲のある生産者に貸し出すという制度で、2014年から実際に稼動している。
現在の日本の耕作放棄地は約40万ha(全耕作地の約10%)、そのほかに休耕地が約20万haあり、年々増加傾向にある。これらの農地が外国資本に乗っ取られる危険があるというのだ。
■その先の狙いは、農協組織の弱体化と解体
しかし、所詮日本の農地は限られており、集約化も厄介な日本の耕作放棄地を手に入れたとしても、金貸しの儲けには大きく寄与しない。農業特区の実行の先には別のターゲットがあり、それは、日本の農政に大きな力を及ぼしている現在の農協組織(JA)だと思われる。
既に政府は、今年6月の「規制改革実施計画」において、JA組織の大改革を謳っている。規制改革案の骨子は以下のようなものだ。
①全国に700ある地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)を廃止する、②農作物の販売を扱う全国農業協同組合連合会(JA全農)は株式会社にする、③地域農協のJAバンクなど金融事業は、農林中央金庫や信用農業協同組合連合に移す、④農業生産法人に企業が出資しやすくする、⑤農地の売買を許可する権限をもつ農業委員会は縮小する
長周新聞より
TPPの強力な反対勢力でもあるJAの権限を剥ぎ取り弱体化させることができれば、外部と内部の両面から日本の食料支配を強化することができ、さらに農業だけでなく、医療や保険の利権を手に入れるためのTPP交渉を有利に進めることも容易になる。既存の「岩盤規制」を外した養父市や新潟市の農業特区の成功は、JA弱体化を強力に推進する絶好の口実になるだろう。
■本命中の本命は、農協が抱える100兆の巨額マネーか
それだけではない。農協解体の先には、金貸しにとっては喉から手が出るほど魅力的な巨額のマネーが転がり込んでくる可能性が待っているのだ。その筆頭が、農林中金である。
1986年に完全な民間法人となった農林中金は、約3兆円の出資金の9割以上を全国の農協とその連合会が占め、それ以外を漁協、森林組合、土地改良区など日本の第一次産業の関連団体が占めている。
総資産は約83兆円。全国のJAバンクを通じて全国の農林水産業関係者から50兆円の預金を集めている。かつ、いまや第一次産業への融資はポートフォリオの約5%ほどしかなく、預金額とほぼ同等額を国債や株式などの証券投資によって運用している。いわば、農家の金を元手にした投資銀行なのである。日本のバブル時には住専に、リーマン・ショックの際にもファニー・メイなどの外国債券に手を出し巨額の損失を出したことも記憶に新しい。
さらに、農協の保険事業を担うJA共済の総資産は約52兆円。保有契約高(保険契約者に保障している金額の合計)は約300兆円。この資産規模は郵政民営化で誕生したかんぽ生命(総資産87兆円)に次ぎ、民間最大の日本生命(同58兆円)にほぼ匹敵する。
従って、持ち主である農協を解体させることができれば、金貸しには、農林中金やJA共済の総計100兆円のマネーと金融事業を丸ごと手に入れるチャンスが訪れるのだ。オリックスのような金融系の企業が養父市でせっせと野菜工場に取り組む理由も、ここまで見越しているのだと考えれば腑に落ちる。
JAや農業委員会の存在が、日本の農業の再生を遅らせてきたのは一面の事実である。しかし、今回の農業特区のような形で闇雲に解体と民営化を進めれば、金貸しによる食料支配を進行させるだけでなく、農家の虎の子の資金まで悉く吸い上げられてしまう危険があることを認識しておかなければならない。
次回は、食料と並んで日本の自立を左右するエネルギーの状況を押さえる。
<転載終了>