https://news.livedoor.com/article/detail/18155872/
<転載開始>
「禁止」は少ない
政府や公衆衛生庁から出ている、法的な規則と強制ではない勧告の概略を、スウェーデン公共放送SVTや政府・当局の発表を元にまとめてみた。
■法的な規制は次の通り(概略):
・50人を超えるイベント等の禁止
・飲食店やバー、学校給食ホールなどでの混雑禁止
・EU合意に基づく一時的な渡航制限
・高齢者施設への訪問禁止
■公衆衛生庁から出ている勧告(抜粋・概略):
・鼻水や咳、熱など、軽度でも症状がある人は家にとどまる
・70歳以上や、持ち病がある「リスクグループ」の人は、可能な限り人との接触を制限し、家にとどまる。薬局や食料品店などでの買い物、人混みを避ける。公共交通機関の利用を避ける。
・公共交通機関内で、人との距離をとる
・屋内外で人との距離をとる
・パーティや葬式、結婚式など大きめの集まりに参加しない
・不要不急の旅行は避ける
政府や当局は、こうした指示の重要性を繰り返し訴えているが、それでも「勧告」であって、「禁止」ではない。これが「緩い」と呼ばれるひとつの理由である。
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ただ、「緩い」とはいっても、メッセージは明確だ。
3月22日、ロベーン首相はテレビで国民に語りかけた。約5分間と短いながらも、危機感が伝わり、政府の方向性、市民に求められていることなどが、具体的に示されたスピーチだった。
政府関係者が「ニュース番組」に連日登場
例えばこんな具合だ。
「政府が目指すのは、感染拡大を抑え、大勢の人々が同時に重症化しないこと。医療機関への財源を確保すること。この困難な時期に、働く人や企業への打撃を軽減すること」
「一人一人に、感染を防ぐ・高齢者などリスクグループを守る、という責任がある」
「当局の勧告に従うのは、一人一人の義務だ。あなたの義務、そして私の義務だ。」
「症状があれば決して仕事に行かない」
スウェーデンのローベン首相 photo/gettyimages
スウェーデン公衆衛生庁を中心にした、関連当局の情報発信も頻繁だ。
平日は毎日記者会見があり、説明後に質問に答える。オンラインで参加する記者にも返答する。その様子は、公共放送SVTやそのサイト、公衆衛生庁のユーチューブ・チャンネルでライブ・録画で見られる。さらに、関係当局や政府関係者はニュース番組にも連日登場し、鋭い質問を突きつけられながら、説明を続けている。
方針に批判や疑問はあっても、こうした姿勢に一定の安心感を感じるのは、おそらく私だけではないだろう。
高校以上の教育機関が遠隔/オンライン授業に切り替わる一方で、小中学校以下は通常通り、という方針になった時も、批判が噴出し(その声は今でも根強い)、私も懐疑的だった。
ただ、公衆衛生庁の疫学者の「問題は子供がどこに行くか、だ。リスクグループである祖父母が世話せざるを得なくなり、感染が広がるのを避けたい」といった趣旨の説明を聞いて、なるほどと思った。
公衆衛生庁サイトに、「ただし、症状のある生徒や教職員が必ず休むことが重要」で、また、「最近可決された法案により、状況によっては政府または学校運営者が休校にできる」などと明記されているのも役立った。
「症状があったら家から出ない」が実行できる補償
「のどの痛み、鼻水、咳、熱など、軽度であっても症状があれば、とにかく家にとどまれ」という指示は、感染拡大抑止策の主軸のひとつで、当局や政府が繰り返し訴えている。法的拘束力はない。
だが、政府は、市民がこれを実行しやすいよう、早いうちから方策をとってきた。
病気欠勤補償の大幅な拡充だ。
同国では通常、病気で欠勤した場合、所得の約8割が雇用主(最初の2週間)あるいは国/保険庁(それ以降)から支払われるが、支給が始まる前に「病欠給与差し引き」と呼ばれる支給のない日数が設定されている。一般的に、被雇用者は1日、個人事業主は1~14日で設定されているこの期間中は、実質無給となるため、多少無理してでも仕事に行く、という人も少なくない。
政府はまず、この「病欠給与差し引き」を一時的に廃止。5月末まで、被雇用者は1日分700クローナ(約7700円)、個人事業主は1日あたり804クローナ(約9000円)を国/保険庁に請求できるようになった。
また、雇用主の負担を減らすため、通常は雇用主が支払う「病気欠勤中の給与」を、国が2ヶ月間肩代わりをする決定もされた。
さらに、一定期間は医師証明書の提出を不要とするなど、事務の簡略化もされた。
ただ、この政策では時給で働く人の一部が漏れているという指摘もある。感染が拡大している高齢者施設などでは時給で仕事をする人が多いといわれ、問題視されている。
経済支援策のきめ細かな中身
「50人を超えるイベント等の禁止」という規則によってコンサートやスポーツ試合など、さまざまな催事が中止・延期されるなか、その経済損失の軽減のために、文化・スポーツ界へも助成金計10億クローナ(約110億円)の支給を発表した。
さらに、新聞等のメディア助成金が年間2億クローナ(約22億円)増額される法案も出されている。
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もともとある助成金ではあるが、特に新聞媒体の助成を強化したのは、この危機下で情報伝達が一層重要になったほか、リスクグループである高齢者の情報源は多くが紙媒体であるためだ。
街でレストランやカフェや店舗が営業しているとはいえ、外食・ホテル・観光産業をはじめ各業界への打撃は膨大だ。政府は打撃軽減のための経済支援法案を続々と発表している。
たとえば次のような対策がある。
■経済支援策の例(抜粋) - 審議中を含む
1. 短期就業手当(企業が従業員を解雇せずに就業時間短縮で対応した場合、給与等の4分の3を国が負担。企業は事業を再開しやすく、従業員は所得の9割前後を保持できる):少なくとも195億クローナ=約2145億円
2. 社会保険料の一時的な大幅削減(事業主が払う年金以外の社会保険料を30人分まで一定期間免除):330億クローナ=約3630億円
3. 店舗や飲食店、ホテル等に向け賃貸料一部援助:50億クローナ=約550億円
4. 全国自治体への通常外支出補償(医療や介護を請け負う県市町村の負担増を補償):30億クローナ=約330億円
5. 全国自治体への一般交付金補強:200億クローナ=約2200億円
6. 「病欠給与差し引き」の一時補償と企業負担分の肩代わり(前述):合計約90億クローナ=合計約990億円
7. 文化・スポーツ界助成金(前述):計10億クローナ=約110億円
8. メディア助成金拡充(前述):2億クローナ=約22億円
9. 失業保険拡充(後述):約53億クローナ=約586億円
(SVTや政府発表の資料を元に作成。)
ちなみに、こうした政策が提案され始めたのは、3月11日。スウェーデンで感染者が増えはじめたのは2月末であるから、たった2週間後のことだ。
もともとある比較的手厚い社会補償も、一定の安心基盤となっている。
例えば、 子供の看病のために在宅する場合、所得の約8割が補償されるVABという制度がある。新型コロナウイルス対策として、医師証明証の提出が省略された。また、新型コロナウイルスに限らず、他人への感染リスクのために欠勤する場合の補償金(所得の8割弱、上限あり)が以前からある。
その他にも、失業保険への受給条件の一時的な緩和、最低補償金額の引き上げなどを定めた法案が可決された。スウェーデンで今のところ、現金一律給付を求める声をあまり聞かないのは、おそらくこうした背景からだろう。
試行錯誤が続く対策
もちろん、各国と同様にスウエーデンの政策も万全とはいいがたい。今の経済支援策ではまったく足りないとの声も大きいし、方針の運用で試行錯誤している様子もうかがえる。
例えば、患者の急増を見据えて、医療従事者の防護器具の基準を緩和したが、命の危険に身をさらしながら働いている現場のスタッフからは反発の声が上がった。
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また「人との距離をとる」という勧告がありながら、ストックホルム県の公共交通網を運営するSLが、人員不足を理由にバスなどの本数を大幅に減らしたため、都市部の路線で大混雑が起こり、公衆衛生局や市民から批判が高まった(スウェーデンラジオ・SR)。
公衆衛生庁が新たに公共交通機関への勧告を明記したことから、SLは改善を約束したが、まだ問題は解消していないようだ(エクスプレッセン紙)。
さらに「レストランやバーなどでの混雑や列並び禁止」についても、規則に反した例が多数見られるため、「守られない場合は営業停止にもなり得る」と当局が発言した。
しかし、ロックアウトなどの強い規制を取らないスウェーデンが医療崩壊を防げているのはなぜだろう。
政府への信頼
冒頭でも紹介したようにスウエーデンは、その「緩い規制」について近隣各国から批判を浴びている。
早いうちから国境を封鎖し、国内でも居住自治体以外への宿泊を禁止している同じ北欧の隣国・ノルウェーの研究者は、「スウェーデンの感染は拡大する」と懸念している(アフトンブラーデット紙)。スウェーデン国内にも、小中学校の休校や首都・ストックホルム封鎖を求める専門家もいる。もちろんまだまだ予断を許さないが、スウエーデンがこのような「緩い規制」をとったのには、ある背景があったのではないか。
それは政府や当局への信頼だ。
中央スウェーデン大学の研究者ルンドグレーン氏は、「新型コロナウイルス対策について、市民はどのくらい国や当局・メディアを信頼しているか。また、それが市民の危機判断にどう影響するか」を研究するという(スウェーデン公共放送SVT)。
本格的な調査はこれからだが、今の印象として「スウェーデン市民の信頼は比較的高い。大半が指示に従っている」と答えていた。私が感じている肌感覚と近い。
もちろん個人差はある。ただ、それでも大半の人が多かれ少なかれ信頼を寄せているのは、本記事で紹介したような、政府や当局のしっかりとした説明、市民への指示と連動した支援策、生活の基盤にある社会補償、の存在と無関係ではないだろう。
「信頼」は、スウェーデンの新型コロナウイルス対策をめぐるキーワードのひとつと言えそうだ。「なぜ“勧告”なのか。なぜ“禁止”にしないのか?」ジャーナリストにそう聞かれた時、公衆衛生庁長官もこう答えている。「対策について語る時には、市民が責任をもって行動するという信頼に基づくことが重要」(SVT Agenda)。
緊迫した事態が続き、予断を決して許さない情勢だが、今のところ何とか「緩い規制」で医療崩壊を食い止めているスウェーデン。この先、どうなるか。政府や当局が、信頼を軸に、いかに規制/禁止と信頼/自主性のバランスを見極めながら舵取りしていくのか、注目していきたい。
<転載終了>
いつも読み応えのある記事を掲載していただきありがとうございます。m(.".)m
今回は、Junk Poetさまの心のこもったとても気持ちのよいコメントを拝見しなぜか嬉しくなってしまったので書き込みさせていただきました。
記事を掲載していただいたことへの感謝の言葉、問題点への的確な感想をはじめ、愚痴や過剰な批判に陥らないで前向きの姿勢を保たれていらっしゃることから感じられる爽快さ、さらに、社会的に弱い方への温かいお気持ちなど、善意あふれるコメントを読み希望をいただきました。
Junk Poetさま、どうもありがとうございます.....m(.".)m
何事があろうと、いま自分のいるポジションから、この世の中を少しでもよくしていこう!この世の中を明るくしていこう!自分の周りの方が笑顔になれるよう心がけようという心ある方々の存在を感じられるだけでとても元気がいただけます。
これからもお元気でご活躍くださることを祈念申し上げます.....❤
genkimaru1
が
しました