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<転載開始>
https://www.mag2.com/p/news/562020

12月21日にアメリカを訪れ、米連邦議会で演説を行ったゼレンスキー大統領。なぜウクライナのリーダーは、このタイミングでの訪米を敢行したのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、ゼレンスキー氏の電撃的米国訪問の裏側を推測。さらに当紛争のカギを握っているにも関わらず目立った動きを見せない「とある国」の実名を挙げるとともに、彼らの思惑を分析・解説しています。
ポーランドが握るウクライナの運命。ロシアとウクライナで大きくずれたEndgameのかたち
「クリミア大橋を爆破されたことで、プーチン大統領とロシア政府のredlineを超え、プーチン大統領はウクライナを徹底的に叩きつぶす決意を持った」
2022年10月8日早朝に、ロシアにとって“クリミア解放のシンボル”と捉えられていたクリミア大橋が何者かによって爆破されました。
ウクライナ軍の特殊部隊によるものではないかとの見解が当初示されていましたが、直前の映像では橋の下にアプローチしてくる小さな船舶の姿も確認できました。
クリミア大橋爆破の主犯がウクライナ軍の特殊部隊であろうと、イギリス軍の特殊部隊の仕業であったとしても、プーチン大統領にとってはどうでもよく、彼にとって重大なのは、自らのレガシーでもあるクリミア大橋を誰かが爆発したというfactです。
このショッキングな事件を機に、ロシアの対ウクライナ戦術はレベルアップされました。それが今、起こっているウクライナ国内の電力網や石油備蓄施設をはじめとする“生存のためのインフラ”を徹底的に破壊するという攻撃です。
以前から継続しているように天然ガスパイプラインは途絶させ、発電所や送電網をことごとく破壊し、主な補給路を断ち、輸送網も麻痺させるという、徹底的な攻撃で国民を飢えと寒さに晒して抗戦意欲を割くという冷徹な作戦です。
ウクライナ側もロシアの空軍基地への無人ドローンでの攻撃を加えるという、ついに一線を越えることで、ロシアによる攻撃に屈しないとの意思を明示していますが、ロシアによるウクライナ国内の生活インフラへの徹底攻撃は止んでいません。
それゆえに、ゼレンスキー大統領は戦闘中にもかかわらずワシントンDCを訪問し、抗戦のための大規模な軍事支援を依頼しに行ったわけですが、彼が得たのは何だったでしょうか?
1基のパトリオットミサイルとミサイルに装着可能な誘導システム、そしてハイマースなどの拡充などがパッケージに含まれました。パトリオットミサイルをアメリカが供与することが事前に情報として出てきた際には、パトリオットミサイルがゲームチェンジャーになるのではないかとの期待にメディアなども溢れていましたが、実際にはたったの1基のみというニュースに私は個人的にとても驚きました。
ちなみに同盟国か否かというステータスの違いはあるものの、確か我が国日本を守るパトリオットミサイルは18基(計36発)あり、日本列島のいたるところで攻撃に対して目を光らせています。
ウクライナの場合、この1基のパトリオットミサイルはどこに配備され、どこを守るのでしょうか?キーウ?ハルキウ?ヘルソン?それとも…。
現在、ロシアが仕掛けているインフラへの徹底的な攻撃は精密な誘導ミサイルを用いたものであり、主眼は補給路の破壊とインフラ施設の破壊ですが、補給路を優先するならばリビウ周辺、インフラ施設だと大都市圏ということになるのでしょう。
具体的な配備の場所や体制についてはまた明らかになるでしょうが、私が抱く大きな疑問はなぜこんな中途半端な支援獲得のために、ゼレンスキー大統領はウクライナを物理的に離れたのかです。
次ページ:ゼレンスキー氏を客寄せパンダに使ったバイデン政権
欧州各国が口は出してもなかなか支援してくれない中、単独で全体の4割から5割に上る支援を軍事的にも経済的にも行っているアメリカにいくことで、アメリカでも高まるウクライナ支援疲れを反転させたかったという理由はあるでしょうが、恐らくは「支援継続のためには、自身でワシントンに来てもらい、財布のひもを握る議会下院に直接訴えかけてもらわないといけない」というバイデン政権からの要請が大きかったのではないかと思われます。
追加の支援、そして高性能の武器が喉から手が出るほど欲しいゼレンスキー大統領の足元を見たとまではいいませんが、来年の議会で下院の多数派が共和党になる前に、ウクライナ支援を含む軍事予算を成立させなくてはならないという、バイデン政権側の理由も大きく、意地の悪い言い方かもしれませんが、ゼレンスキー大統領を政治的な客寄せパンダに使ったようにも思われます。
実際に誘われるがままにワシントンを訪問し、議会での演説を行ったゼレンスキー大統領でしたが、戦争継続中のリーダーが現場を離れるというリスクを冒すだけの価値あるものをお土産として持って帰ることができるのでしょうか?
ゼレンスキー大統領はロシアがウクライナに侵攻してからずっと、ウクライナに留まり、暗殺の危険を覚悟でウクライナ国民と軍、そして国際社会に訴えかけてきましたが、この“ウクライナを離れた”という現実が、ロシアの侵略に対するウクライナ国民が一致団結して戦うというモチベーションに変なハレーションを起こさないことを切に願います。
ゼレンスキー大統領の訪米のみならず、時を同じくしてプーチン大統領がベラルーシを訪問し、また航続距離が1万8,000キロメートルにも及ぶ(つまり南半球経由でもアメリカ全土が射程圏内)ICBMサルマートを実戦配備することを発表するなど、いろいろと起きた今週でしたが、今週の動きがすぐに何か具体的な行動に繋がりそうかと言われれば、そうではないと思います。
キーウ再攻撃のためにベラルーシ経由での攻撃を計画しているという情報もありますが、現在、遂行されているレベルの攻撃ではすでに地上兵力を投入して軍同士をターゲットにするという戦い方ではなく、すでにその次のレベルの「市民生活の破壊とインフラの破壊」に進んでいますので、恐らくこれは、ロシア側が作り始めた戦後の勢力確保・拡大のための策の一環ではないかと思います。
それを挫くためにはパトリオットミサイルをはじめとする精巧な迎撃ミサイルシステムは重要ですが、防衛“システム”と呼ばれるように、それなりの規模をもって“網”を張る必要が出てきますので、発表されている規模でどこまで対応できるかは不透明です。
今回のウクライナの抗戦の効果を左右するのは、安定した補給の確保だと考えますが(ゆえにロシアはここを叩きに来ているのでしょうが)、その際、そのカギを握っているのは“だれ”でしょうか?
物資や軍備を提供するアメリカや欧州各国はもちろん重要ですし、ウクライナからの穀物輸出を仲介するトルコも別の観点から重要な立ち位置です。
しかし、あえて最も重要なカギを握っている国を挙げるとしたら、私はウクライナの隣国でNATO最東端に位置するポーランドではないかと思います。
それはなぜか?
次ページ:なぜカギを握るポーランドは動かないのか
第一に【日に1,000万トン程度必要とされるウクライナへの物資の流通・補給の9割がポーランド経由である】という状況です。
ゆえにロシア軍は今、補給路を断つべく、国境地域でポーランド系ウクライナ人が多いリビウ周辺に攻撃を加えています。国境越えを行う道路を寸断し、鉄道網に打撃を与えることで補給路を閉ざす作戦ですが、このロシアの作戦に対して今、ポーランドは目立った動きを見せていません。
ウクライナ国内が現在深刻な問題に陥っているのは、ロシア軍による攻撃で破壊されたインフラを修理する物資が決定的に足りないという理由がありますが、ポーランド側には物資も人手(ウクライナからの避難民含む)が十分にあり、専門家によると、リビウ周辺ぐらいであれば十分に対応可能ということです。
ではどうしてポーランドは動かないのか?
一説には先日“第3次世界大戦のイブ”とも恐れられたポーランドへのミサイルの着弾に対する謝罪がウクライナからないことへの怒りがあるとの話もあるのですが、実際にはウクライナへの警戒心とロシアへの恐怖、そしてNATOから押し寄せる様々なプレッシャー、ウクライナからの避難民受け入れで生じた国内情勢の不安定化など、いろいろな理由があるようです。
一言でいえば、あまり積極的にウクライナ情勢に絡みたくないという状況と推察します。
国内的には大統領と首相の方針がずれているようで、バランスを取ってポーランドを守りに入る大統領ドゥダ氏と、欧米からの要請を受け入れてNATOやEU内での立場を有利にしたいとの思いからウクライナに肩入れしたいモラヴィエツキー首相のそりが合わないと伝えられています。このリーダーシップレベルでのずれが生んだ典型的な動きが、ポーランドが一度約束した戦闘機のウクライナへの直接供与が取り消されたことです(あとは、プーチン大統領が繰り返す核兵器使用の脅しでしょうか)。
その背景にはドゥダ大統領のバランス感覚があり、さまざまなメディアの情報や英情報機関からの情報とは違い、ロシアは実際にポーランドに戦火を拡げることに関心がなく、スタン系の国々とは違い、ウクライナ国境を越えてくるつもりはないと考えているらしいと言われています。
ゆえに、ロシアによる侵略行為は許せないとの前提は変わらないものの、ロシアをあまり不要に刺激してポーランドに火の粉がかかるのを見たくないという意図が見えます。
それに加えて表面化してきているウクライナからの避難民とポーランド人(ワルシャワやドイツよりのPoznanなどの住人)との間で表面化しつつあるいざこざへの対応を優先しなくてはならないことが挙げられます。
ポーランドのdemographyを見てみた場合、ドイツに近い側はどちらかというとベルリン、パリ、ロンドンを意識している半面、ウクライナ国境に近い側のポーランドは、どちらかというとロシア・ウクライナ側、つまり東側を見ています。
そうなる理由は、ポーランドが辿った歴史的な経験があると思われます。第2次世界大戦時、ナチスドイツがロシアに遠征した際に蹂躙され、ナチスドイツがロシアに追い払われた際にはロシアに蹂躙されるという、双方向から侵略された経験を指します。
そこにかつてはポーランドも帝国として、現在のウクライナを支配し、ハンガリー、ブルガリアなども支配下に置いていたという過去があり、今でもそれがウクライナや周辺諸国に対する根本的な感情に繋がっていると言われています。
そしてそれゆえか、あまり認めたがりませんが、ポーランドのリーダーたちの対ウクライナ観は、ロシアのそれと似ており、ウクライナを国家とは本気で見なしていない雰囲気があります。
次ページ:ポーランドがウクライナ西部を取りに行く可能性も
ロシアがウクライナに一斉侵攻した際にはNATOの一員として、そしてNATO内で最もロシアに近い国として、ロシアの行動に対して対抗する構えを見せていましたが、事態が長期化するとともに、ドゥダ大統領周辺は少し冷静な判断をするようになったようで、NATOに基地使用は認めても、ポーランド軍が直接的に戦争に加わることはしないという姿勢を固めたようです。
それと並行してプーチン大統領が繰り返す核兵器使用の脅しは、実際の使用というよりは、ポーランドに対して「動くなよ」というメッセージだと受け取られています。
そのため、ポーランドは今、“動いて”いません。
今後、良くも悪くも戦況に大きな変化・動きが出るとしたら、ロシアによる核兵器使用というextremeか、ポーランドが人種的には同じと言っていいウクライナ西部を取りに行くケースが起こった場合だと考えています。
皆さんもご存じの通り、ウクライナは大きく分けて3分割できます。1つはドンバス地方に代表されるロシア系が多いロシア正教会系の地域(ノヴォロシアー新ロシア。ここはロシア正教会)、2つ目はキーウからドニエプル川あたりまでをカバーする小ロシア(ウクライナ正教会)、そして3つ目がポーランド国境に近いリビウ周辺を指す西部(カトリック系のガリツィア地方)という分類ですが、ロシアとウクライナを含む多国籍の分析官の意見をまとめると、プーチン大統領とロシアの3つ目の西部の支配にはさほど関心がないようです。
ゆえにもしポーランドがガリツィアを獲得する代わりにロシアに協力するとでも言いだすような事態になれば、戦況は大きく変わってしまいます。
これを匂わすような発言があったのは、プーチン大統領が言った「ウクライナがEUに加盟することは全然かまわない。NATO入りは絶対に許さない」という内容です。
深読みしすぎかもしれませんが、ロシアと関わりを持とうとしたり、親近感を全く感じたりしないウクライナ西部(ガリツィア)がEUに入ることになれば、EUが復興の面倒を見なくてはいけないことになり、戦争の後、ドイツとフランスがお金や人を出して面倒を見る必要が出てきます。そこでポーランドは、Brexit後、すでにEU第3のパワーになっていますが、物理的にウクライナ人とガリツィアを引き受けることで、富めるEU西欧国からの支援も引き出せるというわけです。ポーランドにとっても大いにうまみがあるように思いませんか?
もしロシアもポーランドもお互いは嫌いでも、実利を追求して相互不可侵の約束をし、ガリツィアをポーランド、残りはロシアというような線引きを水面下で行うような事態になれば、ウクライナという国家は消滅し、新しい地政学的なリスクがユーラシアに誕生することになります。
「それはあなたの行き過ぎた妄想でしょう?」と批判されるかもしれませんが、いろいろな情報をもとに考えてみると、あながち妄想とも言えないような気がしています。
それは、ゼレンスキー大統領がアメリカ議会でも発言したように、ロシアはまだまだ戦争を継続することが出来るだけの武器弾薬を持っていますし、ポーランドは戦略的沈黙を続け、うまい具合に気配を消しています。
その背後では、すでにウクライナ国内のインフラを徹底的に破壊するという市民生活と生命の破壊という戦争戦略の第2幕から、「リーダーシップの排除」という第3段階にロシアの作戦が移ってきていると思われます。
次ページ:「進むも退くも地獄」となったゼレンスキー氏
ゼレンスキー大統領は非常に演説もうまく、巧みな言い回しと表現で人心を掴む稀有な能力を有していると思われますが、プーチン大統領が仕掛けている戦争の第2幕(インフラの徹底的破壊)は、ウクライナ国民とゼレンスキー大統領をとても残酷なジレンマに晒しています。
<転載終了>
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