YocchannoBlog2's Blogさんのサイトより
https://yocchannoblog2.exblog.jp/35437271/
<転載開始>

最近、米国が発表した欧州における軍拡の方針が物議を醸している。これは米国が数年前、2019年に旧ソ連との間で締結していた中距離核戦力全廃(INF)条約から一方的に脱退したことに端を発している。198861日に発効した米ソ両国間のこの条約は、射程が500キロから5,500キロまでの範囲の核弾頭、及び、通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイル、ならびに、巡航ミサイルの廃棄が求めている。こうして、旧ソ連邦とその後継国家であるロシアと欧州の間では30数年間にわたって相対的に平和な時代を満喫することができた。

米国は2026年にドイツ国内に長距離ミサイルを配備するという。その骨子は次の通りである(原典:The US says it's goingto put its new long-range strike missiles, including hypersonic weapons, inGermany: By ChrisPanella, Business Insider, Jul/11/2024):

米国は2026年にドイツに新型長距離兵器を配備する計画を発表。

SM-6、トマホーク、開発中の極超音速兵器などが含まれる。

ウクライナでの戦争はより奥深く攻撃を行う選択肢の必要性を示している。

この発表を受けて、ロシアは対応策をとると言っている。

軍事ニュースに関する評論では世界でトップの位置を争う専門家のひとりとして米国人のスコット・リッターがいる。彼は本件について独自の見解を示した。ここに「欧州へダーク・イーグル極超音速ミサイルを配備すると、たったひとつの間違いで全面戦争を誘発するかも ― スコット・リッター」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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動画(2:58):スコット・リッターは米国によるドイツへのミサイル配備は「非常に不安定な展開」であり、「ロシアはこれに対応するであろう」と述べている。

2026年までにドイツに戦略地上配備型ミサイルを配備するという米国の計画に対して、ロシアは軍事的対応を誓った。1980年代にヨーロッパにおける軍備管理に関する本を執筆した元国連兵器査察官から国際問題オブザーバーに転身したスコット・リッターは、スプートニクに、なぜ将来の配備がそれほど危険なのかを語っている。

ホワイトハウスは、先週、ドイツに、新型ミサイルを含めて3種類の戦略ミサイルを配備するという計画を発表した:

地上発射型巡航ミサイル「トマホーク」は、米国が2019年にロシアとのINF条約を一方的に破棄した後に国防総省が入手できるようになった。このレイセオン製のミサイルの射程距離は4602,500キロで、通常弾頭または低・中出力の核弾頭を装備することができる。

SM-6 は米陸軍の新しい「タイフォン」中距離(MRC)ミサイルシステムであり、米国がルーマニアとポーランドに配備したイージス・アショア防空ミサイル防衛システムから発射できる長距離地対空ミサイルシステムでもある。レイセオン製。射程距離は240460キロ。

まだ名称が与えられてはいない「極超音速」ミサイルとは陸軍の「ダークイーグル」長距離極超音速兵器(LRHW)であると広く推測されている。ロッキード・マーティンによって開発されたもので、最大3,000キロの航続距離が報告されているが、搭載能力は不明。

「恐らく、もっとも不安定化させるのはダークイーグルだ」と、元兵器検査官であり、米海兵隊の情報将校であったスコット・リッターはスプートニクに語った。「核搭載可能なミサイルではないが、迎撃が事実上不可能な精密極超音速弾頭であって、ロシアの奥深くを攻撃する能力を持つシステムだ」とリッター氏は説明している。

このようなシステムがあれば、ペンタゴンの計画立案者やワシントンのタカ派はロシアの軍事目標や指導部に対する攻撃を開始する誘惑に駆られる可能性があると、彼は指摘している。この計画は2000年代から取り組んできたものであって、国防総省の長期にわたる従来型即応攻撃(旧称:即応グローバル攻撃)構想に沿ったものだ。

リッターは「これは非常に不安定な展開であり、ロシアはこれに対応すると述べている」と言い、「ロシアの対応の詳細は不明」ではあるが、複数核個別誘導再突入体(MIRV)または機動型再突入体(MaRV)を搭載した固体燃料中距離弾道ミサイルであるRS-26「ルベジ」の開発再開が含まれる可能性があると指摘した。

欧州へ「ダーク・イーグル」極超音速ミサイルを配備すると、たったひとつの間違いで全面戦争を誘発するかも ― スコット・リッター_f0435460_14193488.jpg

Photo-1 RS-24ヤルスICBM移動式地上発射型戦略ミサイルシステムをベースにしたRS-26「ルベジ」が配置できる可能性についてアーティストが描いた印象。© 写真 :MilitaryRussia.ru

「ロシアはこのシステムを再稼働させ、短期間のうちに配備することができると信じられている。RS-26は核弾頭搭載可能な「アバンガード」極超音速弾頭を3発搭載できる道路移動システムである」とリッターは述べた。

1980年代後半に現地査察局で、当時批准されたばかりのINF条約(射程5005,500キロ以内の米国とソ連の地上発射ミサイルを全て廃絶することで、欧州の核の緊張を劇的に緩和することを目的としていた)をソ連側が遵守しているかどうかを検証するために、現地査察局で働いた際の経験について本を書いた元兵器査察官は、スプートニクに、ドイツに再びミサイルを配備するというワシントンの計画は彼にとっては不気味なほど馴染み深いものであると語った。

「私たちは時間を逆行することになる。1980年代にさかのぼって、米国とNATOとロシアは本質的な不安定化をもたらす兵器によって再び対峙する状況に戻っていく。ひとつの間違い、ひとつの誤算、ひとつの判断ミスがこれらのミサイルを怒りに任せて発射する状況につながりかねず、これは米国とロシアの間の全面的な核の応酬をもたらす可能性がある」とリッターは警告した。

「中距離ミサイルシステムを欧州に配備するという米国とドイツの決定は危険極まりない季節に米国とNATOが下したもっとも危険な決定のひとつだ。これは無責任なエスカレーションである。これを覆さない限り、非常に悲劇的な結末につながるだけであろう。またしても見え見えである。これらのミサイルは一度処分したものだ。われわれはかって世界をより安全にした。問題は、もう一度INF条約をやり直せるかどうかである。そして、現在の米国や欧州の指導部、現在の米国やドイツの指導部にはあまり希望を抱けない」と、彼は総括した。

関連記事:RussianMissiles Off Alaska? How Moscow Can Respond to US' Short-Sighted EuromissilePlans: By Sputnik, Jul/19/2024


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これで全文の仮訳が終了した。

軍備競争に入ると、決まってこういった非生産的な混迷状態に陥る。軍備競争を推進することは強さを求めることのように見えるが、実際は自分の弱さを認めることに等しい。人間の歴史には多くの事例があり、それを学習しようとはしないエリートたちはいったい何を優先しているのだろうか?短期的な政治的ポジションや保身を維持するためにもっとも本質的なニーズには気が付かない。あるいは、気が付かない振りをする。

昨日、米国ではバイデン大統領が11月の大統領選から撤退すると発表した。そして、彼はカマラ・ハリス副大統領を支援すると述べた。3週間前に行われたテレビ放映のトランプ・バイデン討論会でのバイデンの失態を目にして、誰もが彼が二期目を目指すことには疑問を抱いたに違いない。8月の民主党党大会までは僅かの日数しかないが、民主党としてはこの限りある時間内にカマラ・ハリスを統一候補として決断することができるのだろうか。

ドイツへの地上発射型長距離ミサイルの配備計画は、トランプが大統領に選出されたら、この計画は棚上げになるかも知れない。トランプが今まで述べて来たロシアとの和解を実行するならば、これは当然の決断であろう。


参照:

注1:ScottRitter: With Dark Eagle Hypersonic Missiles in Europe, ‘One Mistake’ CouldSpark All-Out War: By Ilya Tsukanov, Sputnik, Jul/20/2024


<転載終了>