マスコミに載らない海外記事さんのサイトより
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2025/04/post-e69af2.html
<転載開始>
クリストファー・ブラック
2025年4月11日
New Eastern Outlook

 4月7日、トランプ大統領の経済問題評議会(CEA)議長で、トランプ大統領の首席経済顧問スティーブン・ミランが、右翼の超資本主義団体、ハドソン研究所で演説を行った。

 スティーブン・ミラン:経済を装うプロパガンダ

 彼の発言は、アメリカが全世界に「地球公共財」を提供しているというトランプの中心的プロパガンダの嘘から始まった。この嘘は、彼の国内政策と外交政策の両方を正当化するために使われている。同盟諸国に対する彼の侮辱と攻撃で、ウクライナでのロシアとの戦争での敗北からアメリカを救い出そうとするつぎはぎの試みで、同時に、パレスチナ人に対する攻撃や、イエメンのフーシ派に対する攻撃や、イランに対する戦争の恫喝や、中国に対する戦争の恫喝や、更には小さなデンマークやパナマや、より大きなカナダに対する戦争の恫喝だ。

 世界はアメリカの「防衛傘」や「貿易システム」を必要としておらず、また必要とするべきでもない。それは自分たちの利益のためであり、他の全ての人々を貧困に陥れる体制だ。

 代償を払うよう世界に要求するアメリカ

 この嘘の後、アメリカが世界に対して与えたとされる利益の代償を世界は支払うべきだという要求が続く。だが、利益とは一体何なのか? ミランは次のように述べている。  
「第一に、アメリカは人類史上最も偉大な平和の時代を築き上げた安全保障の傘を提供しています。第二に、アメリカはドルとアメリカ債という準備資産を提供しています。これらは人類史上最も偉大な繁栄の時代を支えてきた世界貿易と金融体制を可能にするものです。」
 更に、これら「奉仕」はアメリカ人にとって金銭的にも人的にも経費がかかりすぎると彼は不満を述べる。
 だが、アメリカは誰にも「安全保障の傘」を提供したことはない。アメリカがしてきたのは、ソ連、そして後にロシアとの戦争を唯一の目的としたNATO軍事同盟を創設し、また世界の他地域で二次的な軍事同盟を結成して、他の国々に自らの意志を押し付け、あるいは押し付けようとしたのだ。これら同盟は、関係諸国の安全保障のためではなく、世界覇権を追求するアメリカに利益をもたらすためのものだった。

 第二次世界大戦の終結時、戦争で大きな被害を受けなかった唯一の大国アメリカは、ヨーロッパとアジアの灰燼の上に立って、世界を自由に支配できると考え、その試みを実行すると決意したのだ。

 核戦争と安全保障の傘

 この「安全保障の傘」を創造した最初の行為は、日米戦争末期に広島と長崎という二つの日本の都市に核兵器を使用したことだった。これは既に決定的だった日本の敗北をもたらすためではなく、ソ連と世界に対して、冷酷な新勢力、誰も敢えて抵抗すべきでない怪物が出現したことを示すためだった。それは、アメリカ合衆国こそが世界の支配者で、他の全ての国々は今やその従者になったという宣言だった。日本人は自らの体験の恐怖を映画『ゴジラ』で表現した。それはアメリカと、アメリカが日本に与えた影響の比喩だった。

 二番目の行為は、1950年に南の傀儡軍が北朝鮮を攻撃したことだ。彼らの狙いは朝鮮半島の共産主義勢力を壊滅させるだけでなく、数か月前に権力を掌握した中国共産党政府を転覆させるために中国に侵攻することだった。内戦を終結させ、侵略してきた日本軍に勝利したばかりの中国は、今度はアメリカとの新たな戦争に挑まなければならなかったが、彼らは戦い抜き、アメリカの強大な軍事力を屈服させた。

 日本に対し原爆を使う必要はなかった。朝鮮半島や中国との戦争も全く必要なかった。アメリカ人の国民性に深く根付いた世界支配への欲望以外は。アメリカ人がアジアにもたらしたのは安全保障ではなく、戦争と想像を絶する残虐行為で、それに対する責任を問われたアメリカ人は皆無だ。

 冷戦と不安定さ

 いわゆる冷戦は、アメリカという中心と、今や大西洋同盟における属国諸国とソ連との戦争だった。それはソ連が彼らに対して行った戦争ではなかった。冷戦は安全保障をもたらしたのではなく、絶え間ない不安と核戦争の脅威をもたらした。

 ドイツ主導のヨーロッパ諸国によるソ連侵攻(今やアメリカとイギリスの支援も受けていたことは周知の事実だ)により甚大な被害を受けたソ連は、社会と経済の再建を余儀なくされた。冷戦は完全にアメリカとイギリスが作り出したもので、ソ連はそれに対処する必要があった。

 その戦争の代償は、ソ連(後に中国も)とのヨーロッパ諸国貿易の損失や、禁輸措置と破壊活動による世界貿易の遮断や、アメリカによる国際資本の支配や、この資金支配と権力の絶え間ない脅威を通じて、アメリカが世界に巨大な安全保障体制を押し付けることで支払われた。数十年にわたり、その支配と統制を維持するため何百もの軍事基地が建設された。これらの基地が建設された国々は、基地の存在から何の利益も得られず、基地を支えるインフラの費用を負担し、米軍が自国民に犯した犯罪に対して強制的に免責されるのに苦しみ、1945年以来アメリカが犯してきたあらゆる侵略行為に加担してきた。

 アメリカは、1960年代、70年代、80年代、そして現在に至るまで、アメリカが支援・援助した右翼独裁政権に抑圧されていたベトナムの人々や中南米の人々に安全を提供したのだろうか? コンドル作戦は平和のための行為だったのだろうか? チリにおけるアジェンデ大統領打倒はチリ国民の安全を守るための行為だったのだろうか? 読者は、中南米やカリブ海諸国のほとんどで起きた出来事、政府転覆や、市民の殺害や行方不明や、キューバやニカラグアやエルサルバドルで起きた国民に対するテロや、ソマリアからルワンダ、コンゴ、ナミビア、アンゴラ、モザンビーク、スーダン、リビアまでのアフリカ諸国や、中東のレバノンや、二度のイラク侵攻や、アフガニスタン侵攻や、現在も続くシリア侵攻や、ヒトラーが達成できなかったロシアの破壊と占領を実現するためアメリカが準備し指揮した戦争、ウクライナにおけるNATOの対ロシア戦争にも同じ疑問を抱くことが可能だ。

 答えは明白だ。アメリカは誰にも安全の傘を与えたことなどない。その代わりに、テロと戦争の雨を世界に降らせ続け、その代償を払ってきたのはアメリカではなく世界で、アメリカはそれらの戦争で利益を得たのだ。そして、今アメリカに不満を抱いている同盟諸国は、アメリカの戦争から、その出費を正当化するほどのものをほとんど得ていない。アメリカは同盟諸国にアメリカの戦争への参加を強制した。戦争は同盟諸国の利益のためでなく、アメリカの利益のために戦われた。アメリカの同盟諸国は、アメリカの侵略のために武器や弾薬や兵站や人員や法的根拠を提供した。アメリカは同盟国軍を補助部隊として利用したが、アメリカは費用を支払っておらず、同盟諸国は自ら費用を負担しなければならなかった。アメリカが何かを負

っているのではなく、これらの戦争を遂行するためアメリカが受けた全ての援助に対する費用は同盟諸国が負担している。  また、アメリカの軍事力が世界経済の安定を保証したとミランは主張している。これもまた事実の歪曲だ。絶え間ない戦争は貿易を阻害し、エネルギー危機を引き起こし、甚大な規模の人類の悲劇を生み出した。もしこれらの戦争が起きていなければ、世界は経済発展において遙かに進歩していたはずだ。何十年にもわたり世界の経済発展を阻害し、抑制する主役を演じてきたのはアメリカで、この破壊的な道を歩み続けるつもりだ。

 二つ目の主張に関して、彼は次のように付け加えた。

 「金融面では、ドルの準備通貨としての機能は、通貨の歪みを永続的に引き起こし、他国の不公平な貿易障壁と相まって、持続不可能な貿易赤字の一因となっています。こうした貿易赤字は、アメリカ以外の国々との貿易を促進するために、アメリカの製造業や、多くの労働者階級の家庭や、地域社会を壊滅させてきました。」

 あたかも他の国々がアメリカを利用したかのような話を彼はしているが、アメリカ自身がドルを準備通貨として作り、それを全員に使わせようと脅迫したのもアメリカで、アメリカが長年自国に利益をもたらす世界経済構造であるIMF(国際通貨基金)や、GAT体制やWTO(世界貿易機関)や、SWIFT制度を構築し、キューバなど気に入らない国々に損害を与える制度を支配すべく、プロパガンダや手法を推進するため、アメリカが支配する無数の「非政府」組織を構築したのもアメリカであることを歴史感覚を持つ人なら全員が知っている。

 経済が好調で世界を支配していた時代に、世界的な自由貿易を推進したのは彼らだった。1971年にベトナム戦争の債務返済も兼ねて金本位制を放棄し、ドルを切り下げたのも彼らだ。そして今、彼らはドルを準備通貨として利用することで米ドルが高騰し、「市場を歪めている」と主張しているのだ。状況が悪化し、政策を転換して自国通貨を切り下げ、商品を安くしようとしているのは明らかだ。だが、それはドル価値が下落し、物価上昇を更に加速させるだけだ。

 口実で正当化される関税

 関税導入の決定も、事実や歴史に全く基づかないこれらの口実により正当化されている。アメリカが「搾取されている」とトランプとミランは主張しているが、彼らが真に言いたいのは、中国、インド、ブラジル、そしてその間の国々など、同等の経済力を持つ国々の台頭により、彼らが世界から搾取するため構築した制度が、もはや機能しなくなっていることだ。アメリカを搾取した国など存在しない。一体いつアメリカが搾取されることを許したというのだろう? 決してない。アメリカは常に他国から搾取するのに躍起になり、その目的を実現するために金融、経済、軍事力を行使してきたのだ。

 アメリカ指導者層とエリート層は、安価な労働力でより多くの利益を得られるという理由から、中国やメキシコやハイチやベトナムや東欧など安価な労働力がある国々へのアメリカ製造業者の工場移転を許した。これにより、莫大な利益がアメリカの国庫に流れ込んだ。だが一体誰が誰を搾取したのだろう? 中国では、政府がアメリカの工場で働く労働者に教育と技能を提供し、生活や移動や医療のためのインフラを提供した。これらに対し、中国にも安価な労働力を求めて進出した他国にもアメリカ企業は一切補償しなかった。

 実際、アメリカ企業や外国企業をアメリカに移転させ、生産拡大を図るというトランプ計画の問題点の一つは、アメリカには安価な労働力、少なくとも合法的労働力が存在しないことだ。不法移民はアメリカで非常に安価な労働力として利用される可能性があり、実際利用されている。彼らは雇用権も労働組合もない奴隷労働に近い存在だ。だが、トランプは彼らを排除し、アメリカ国内の労働力に頼ろうとしているようだ。これを実現するには、アメリカ内の賃金を引き下げる必要があり、これが彼がドル切り下げを望むもう一つの理由だ。ドル切り下げは実質的にアメリカの賃金を低下させ、製造業者の利益率を高めることになる。

 ミランは最後に中国を攻撃し、中国は敵国だと主張して演説を締めくくった。中国が敵国なのは、アメリカがそう仕向けているからだ。更に、2008年から2009年にかけてのアメリカ金融危機の責任は中国にあるという突飛な主張までしている。そして「公平性」について語り、アメリカは公平に扱われるべきだと訴える。だが、実際には不公平だ。彼は最後に、アメリカの産業基盤再建の負担は世界が分担すべきだ、つまり世界の他の国々が失敗したアメリカ政策の過ちの代償を払い、喜んでそうすべきだと主張しているのだ。

 そしてこの「公平性」を確保するため、彼は次のことを提案しており、私の異見は、その後に記す。

 負担分担はどのような形で実現できるのだろう? 選択肢は多々あるが、いくつか例を挙げてみよう。
 
  • 「第一に、他国は報復措置なしにアメリカへの輸出関税を受け入れられ、アメリカ財務省に公共財供給のための歳入をもたらす。重要なのは、報復措置は負担の分配を改善するどころか悪化させ、世界の公共財の資金調達をさらに困難にする。」
 ここでミランは根本的な間違いを犯している。「他国」は関税を支払わず、アメリカ国民が支払うのだ。アメリカ財務省に歳入をもたらすのはアメリカ国民だ。アメリカ国民は益々貧しくなるだろう。
 
  • 「第二に、市場を開放しアメリカからの輸入を増やすことで、不公平で有害な貿易慣行を止められます。」
 これでは、市場の「歪み」に対する彼の訴えは意味を失ってしまう。アメリカ製品の需要があり、人々が受け入れられる価格でない限り、アメリカ製品を外国市場で強制的に販売させ、市場メカニズムを歪める人為的手法は、市場を歪めることになるからだ。そんな手法は通用しない。人々は欲しいもの、手に入るものを買うだろう。だが、もしかしたらアメリカはそれ以上のことをして、アメリカ製品を買わなければならないという手紙を全ての外国人に送るかもしれない。
 
  • 「第三に、防衛費とアメリカからの調達を増やし、アメリカ製の製品をより多く購入することで、軍人の負担を軽減し、国内に雇用を創出できます。」
 これは脅迫と威圧を用いて外国人にアメリカ製品を買わせようとする、またしても恐喝に過ぎない。軍事分野において、アメリカ製品の性能は他国が製造する同様機械や技術より劣っており、高価なことが証明されている。兵士への負担は、簡単に解決できる。海外の米軍基地を閉鎖し、米兵をアメリカに帰国させれば良い。
 
  • 「第四に、彼らはアメリカに投資し、工場を建設できます。アメリカで製品を製造すれば関税はかかりません。」
 アメリカの投資家が工場を建設する準備も意欲も能力もない理由は述べられていないが、工場が不足していることは認めており、そのため絶望したアメリカ人は、アメリカを豊かにするために他の国々に経済を解体するよう懇願し、脅迫しているが、これは愚かな取り引きだ。
 
  • 「第五に、彼らは財務省に小切手を切り、世界の公共財の資金調達を支援できます。」
 この発言に込められた傲慢さは余りにも極端で、冗談のつもりかと疑わざるを得ない。だが、ミランは本気で言っているようだ。アメリカ人は奇妙なほど自己陶酔的で妄想的な状態に陥っており、実際は、アメリカが世界に恩義を負っているにもかかわらず、世界が自分たちに恩義があると思い込んでいるのだ。

 ミランは次のように結論づけている。  
負担の分担により、アメリカは今後何十年にもわたり自由世界を主導し続けられる。これは公平性だけでなく、実現可能性の観点からも不可欠だ。製造業を再建しなければ、我々の安全と金融市場を支えるために必要な安全保障の提供に支障をきたすことになる。世界は依然アメリカの防衛の傘と貿易システムを維持できますが、その分担金を負担し始めなければなりません。ご静聴有り難うございます。ご質問も承ります。
 世界の反応

 これに対しては、世界はアメリカの戦争を必要としておらず、したがって、安全のためであれ、アメリカが支配する金融市場を支えるためであれ、アメリカの安全保障を必要としていないと世界はアメリカに告げなければならない。アメリカの「防衛の傘」も、自らの利益のためで、他の全ての人々を貧困に陥れる「貿易制度」も世界は必要としておらず、望むべきでもない。世界が必要とし、望んでいるのは、真の平和、全面的軍縮、あらゆる軍事ブロックの解体、そして世界の全ての国々間の調和、友情、協力の政治で、この調和、友情、協力の政治を阻む唯一の勢力は、アメリカ合衆国だ。

 クリストファー・ブラックはトロントを拠点とする国際刑事弁護士。数々の著名な戦争犯罪事件を担当したことで知られ、最近は小説『Beneath the Clouds(雲の下で)』を出版した。彼は国際法、政治、世界情勢に関するエッセイを執筆している。

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2025/04/11/on-steve-miran-propaganda-as-economics/

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 Judging Freedom
Alastair Crooke : Trump and Chaos 32:23
 今朝の孫崎享氏メルマガ題名
WP:[トランプ大統領陣営が世界各国に求めていること] ホワイトハウスが具体的に何を求めているのかは依然大混乱、トランプ大統領の顧問の一部でさえ、目標不明確を認める。 トランプ大統領は貿易赤字を解消めざす、外国が米国製品購入拡大で目指す世界的な貿易均衡を達成はほとんど不可能」

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