https://indeep.jp/mr-ray-dalio-said-so/
<転載開始>

関税の問題以前に大崩壊の種子は積み上がっている
世界最大規模のヘッジファンド会社の創業者であり、大富豪のレイ・ダリオ氏が、ここのところ、メディアのインタビューや、X への投稿などで非常に強い警戒感を表明しています。
X に非常に長い文章を投稿したのは、4月8日のことで、その後、いくつかのメディアに対して、
「ほとんどの人が、関税だけに目を奪われているが、これから起こり得る大崩壊は、それだけによるものではない」
というようなことを述べていました。
ダリオ氏の発言を載せていたブルームバーグの記事のタイトルは、
「世界は「一生に一度」の経済・政治秩序の大崩壊に直面している」
であり、その冒頭は以下のような始まりでした。
ヘッジファンド会社ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者で富豪のレイ・ダリオ氏は、投資家が関税という狭いテーマに目を奪われ、金融、政治、地政学的な秩序で起こっている「一生に一度あるかないか」の大崩壊に十分な注意を払っていないと指摘した。
ダリオ氏はソーシャルメディアX(旧ツイッター)への投稿で、そうした根本的な状況に注意を払わないと、今後起こる最大の混乱から不意打ちを食らうことになるかもしれないと警告した。
米ゼロヘッジの記事は、ダリオ氏の言葉を多く抜粋していて、以下のようなことを述べていました。
レイ・ダリオ氏の言葉より
「われわれは今、決断を下すべき局面にあり、景気後退に非常に近づいていると思う。そして、これがうまく処理されなければ、景気後退よりも悪い事態が起こるのではないかと懸念している」
--「通貨秩序が崩壊している。十分な金額を使うことができないため、通貨秩序を変えようとしている。それが問題だ。…国内秩序、統治のあり方において、私たちは大きな変化を経験している。そして、世界秩序にも大きな変化が起きている。このような時代は、1930年代と非常によく似ている」
「関税を課し、借金をし、台頭する勢力が既存の勢力に挑戦すれば、秩序やシステムにおけるこうした変化は非常に破壊的なものとなる」
--「こうした崩壊は以前にも起きている。…現在の通貨秩序と地政学的秩序は 1945年に始まった。こうしたシステムは周期的に動いており、私は今回の崩壊を懸念している。一般に、このような崩壊は起こるはずがないからだ」
--「その崩壊は 1971年の金融システムの崩壊(ニクソンショック)のような事態になるかもしれない。2008年 (世界金融危機)のようになるかもしれない。非常に深刻な事態になるだろう」
というようなことを述べていたようです。
今回は、このレイ・ダリオ氏が X に投稿した長文をご紹介します。
オリジナルは、ほとんど改行されていないのですが、内容も難しい部分もあるため、かなり細かく改行を加えています。
なお、レイ・ダリオ氏については、2023年8月の In Deep の記事で、ダリオ氏の著作にある
「大国の勃興と衰退の典型的なパターン」
をご紹介しています。以下の記事にあります。この「大国」というのは、今のアメリカが相当します。
・やはり2025年頃にはいろいろと終わりそうで
In Deep 2023年8月29日
ともかく、今は関税のことだけに話題が集中していまして、もちろん関税も大きな問題ですが、レイ・ダリオ氏は、もっと大きな問題がすでに山積みになっていることを教えてくれます。
そして、ダリオ氏は読者に、
「歴史を勉強しなさい」
と述べています。
私などは歴史、特に経済や地政学の歴史を全然知らないですからねえ。麻疹ワクチンの歴史には詳しいですが、ここでは役には立ちません。
ここからレイ・ダリオ氏の投稿です。太字はこちらで施しています。
今起こっていることのほとんどは関税と関係するものなのだろうか
Thinking That What's Now Happening is Mostly About Tariffs
Ray Dalio 2025/04/08
現時点では、発表された関税と、それが市場や経済に及ぼす甚大な影響に当然ながら多大な注目が集まっているが、関税を引き起こした状況や、今後起こりうる最大の混乱にはほとんど注目が集まっていない。
誤解しないでほしいが、これらの関税発表は非常に重要な展開であり、これをトランプ大統領が引き起こしたことは誰もが知っているが、ほとんどの人は、彼が大統領に選出され、これらの関税を導入した根本的な状況を見失っている。また、関税を含め、ほぼすべてのものを動かしているはるかに重要な力もほとんど見落としている。
はるかに大きく、はるかに重要なことは、主要な金融、政治、地政学秩序の典型的な崩壊を私たちが目撃しているということだ。
このような崩壊は一生に一度程度しか起こらないが、歴史上、同様の持続不可能な状況が続いた際には、過去に何度も起こってきた。
より具体的には以下のようになる。
1. 金融・経済秩序は崩壊しつつある
その理由は、既存の債務が過剰であり、その増加速度が速すぎるため、そして既存の資本市場と経済がこの持続不可能なほど巨額の債務によって支えられているためだ。
この債務が持続不可能なのは、
a) 過剰な債務を抱え、自らの余剰を賄うために債務に依存しているために過剰な債務を負っている債務者(例えばアメリカ)と、
b) すでに過剰な債務を抱えており、経済を維持するために債務者(例えばアメリカ)に商品を売ることに依存している貸し手(例えば中国)との間に、大きな不均衡が生じているためだ。
これらの不均衡を何らかの形で是正しなければならないという強い圧力があり、是正されれば金融秩序は大きく変化するだろう。
たとえば、主要国が他の主要国から必要な品物の供給を断たれたり(これはアメリカの懸念)、借りているお金を支払わされたり(これは中国の懸念)しないという信頼ができない脱グローバル化が進む世界で、大きな貿易不均衡と大きな資本不均衡の両方が存在することは明らかに矛盾している。
これは、これらの国々が自給自足が極めて重要となるような戦争に巻き込まれていることの結果だ。
歴史を学んだ人なら誰でも、このような状況下でのこうしたリスクが、現在私たちが直面しているのと同じような問題を繰り返し引き起こしてきたことを知っている。
なので、中国などの国が安価に製造し、アメリカに販売し、アメリカの債務資産を取得し、アメリカがそれらの購入のために中国などの国から借金をして巨額の債務を積み上げるという、旧来の通貨・経済秩序は変革を余儀なくされるだろう。
こうした明らかに持続不可能な状況は、アメリカの製造業の衰退を招き、アメリカの中流階級の雇用を空洞化させ、アメリカがますます敵国と見なす国から必要な物資を輸入せざるを得ないという事実によって、さらに深刻化している。
脱グローバル化の時代において、貿易と資本の相互関連性を反映するこうした大きな貿易・資本不均衡は、何らかの形で縮小せざるを得ない。
それと共に、米国政府の債務水準とその増加ペースが持続不可能であることは明らかだ。
明らかに、こうした不均衡と過剰をすべて削減するためには、金融秩序を根本的に大きく変革する必要があるだろう。
そして、私たちは今、その変革の初期段階にある。これは資本市場に大きな影響を与え、経済にも大きな影響を及ぼすが、これについては別の機会に詳しく述べたいと思う。
2. 国内の政治秩序は崩壊しつつある
国内の政治秩序は、人々の教育水準、機会水準、生産性水準、所得・富の水準、そして価値観における大きな格差、そして既存の政治秩序が事態の改善に効果を発揮しないことによって崩壊しつつある。
こうした状況は、権力と統制を握る右派ポピュリストと左派ポピュリストの間で、何が何でも勝利を賭けた争いに顕著に表れている。
これは民主主義の崩壊につながる。
なぜなら、民主主義は妥協と法の支配の遵守を必要とするが、歴史は今のような時に、どちらも崩壊することを示しているからだ。
また、歴史は、独裁的リーダーシップへの障壁となっていた古典的な民主主義と古典的な法の支配が取り除かれると、強力な独裁的指導者が台頭することを示している。
言うまでもなく、現在の不安定な政治状況は、ここで言及した他の 4つの力、例えば株式市場や経済の問題が政治的・地政学的な問題を引き起こす可能性が高いだろう。
3. 国際的な地政学的世界秩序は崩壊しつつある
国際的な地政学的世界秩序は崩壊しつつあり、それは、他の国々が従うべき秩序を規定する、一大支配国(アメリカ)の時代が終わったためだ。
アメリカが主導してきた多国間・協調的な世界秩序は、一方的な力の支配に基づくアプローチに取って代わられつつある。
この新たな秩序において、アメリカは依然として世界最大の大国であり、一方的な「アメリカ第一主義」のアプローチへと移行しつつある。そして今、アメリカ主導の貿易戦争、地政学的戦争、テクノロジー戦争、そして場合によっては軍事戦争へと、その影響が現れている。
4. 自然現象(干ばつ、洪水、パンデミック)はますます混乱を招きやすい
5. AIなどの技術の驚くべき変化は、生活のあらゆる側面に大きな影響を与えるだろう
AIなどのテクノロジーの驚くべき変化は、貨幣・債務・経済秩序、政治秩序、国際秩序(国家間の経済的・軍事的相互作用に影響を与える)、そして自然現象のコストなど、生活のあらゆる側面に大きな影響を与えるだろう。
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私たちが注目すべきは、これらの力の変化と、それらが互いにどのように影響し合っているかだ。
だからこそ、関税のようなニュースを賑わせる劇的な変化に惑わされ、これら 5つの大きな力とそれらの相互関係、つまり全体的なビッグサイクルの変化の真の原動力から目を逸らさないように強く勧めたい。
もしこれらの劇的な変化に気を取られてしまうと、
a) これらの大きな力の状況と力学が、どのようにこれらのニュースを賑わせる変化を引き起こしているのかを見逃し、
b) これらのニュースを賑わせる変化がこれらの大きな力にどのような影響を与えるのかを深く考えることができず、
c) この全体的なビッグサイクルとそれを推進する要素が通常どのように展開するかに焦点を当て続けることができず、そこから何が起こる可能性が高いのかを多く学ぶことができなくなってしまう。
また、極めて重要な相互関係についてもぜひ考えてみてほしい。
例えば、ドナルド・トランプ氏の関税措置が、
1) 金融・市場経済秩序(混乱を招くだろう)、
2) 国内政治秩序(彼の支持を弱める可能性が高いため、混乱を招くだろう)、
3) 国際地政学的秩序(金融、経済、政治、地政学など、多くの点で明らかに混乱を招くだろう)、
4) 気候(気候変動問題への効果的な対応における世界の能力をある程度損なうだろう)、そして、
5) 技術開発(アメリカにとって、技術生産のアメリカへの流入増加など、プラス面もあれば、技術開発を支えるために必要な資本市場の混乱など、マイナス面もあり、その他にも数え切れないほど多くの影響をもたらすだろう)
にどのような影響を与えるかを考えてみてほしい。
これを実践する際には、今起こっていることは、歴史上無数に起こってきたことの現代版に過ぎないことを念頭に置くと役立つだろう。
政策立案者が、似たような状況に陥った過去の事例でどのような行動を取ったかを研究し、彼らが取る可能性のある行動のリストを作成することをお勧めする。
例えば、「敵国」への債務返済の停止、国外への資本の自由な流出を防ぐための資本規制の導入、特別税の導入などだ。これらの多くは、つい最近まで想像もできなかったことだ。
なので、これらの政策がどのように機能するかについても学ぶべきだ。
不況、内戦、世界大戦といった形で通貨、政治、地政学秩序が崩壊し、それが国家間の関係を規定する新たな通貨、政治秩序、そして崩壊に至るまで国家間の関係を規定する地政学秩序へと繋がっていくことは、いずれも繰り返し起こっており、深く理解することが最も重要だ。
これらは拙著『変容する世界秩序への対応原則』で詳細に解説し、明確に示されている。
全体的なビッグサイクルは、一つの秩序が次の秩序へと移行する過程で展開する、明確に識別可能な 6つの段階に分けられている。
非常に詳細に説明されているため、現在起こっていることと典型的な出来事とを容易に比較することができ、サイクルがどの段階にあり、次に何が起こる可能性があるかを把握することができる。
その本や他の本を執筆したとき、私が今も願っているのは、
1) 政策立案者がこれらの力を理解し、それらと相互作用してより良い政策を生み出し、より良い結果を出せるように支援すること、
2) 集団的には政策に影響を与えることはできても、個別には影響を与えられない個人がこれらの力にうまく対処して、自分自身や大切な人たちのためにより良い結果を出せるように支援すること、
3) 私とは異なる見解を持つ賢明な人々が私と率直で思慮深い意見交換をし、私たち全員が真実とその対処法を理解できるようにすること、
となる。
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