https://indeep.jp/the-tariff-damage-is-done/
<転載開始>

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信用性ゼロの中で
5月11日にアメリカと中国の貿易協定が「成立した」と報じられ、アメリカの株価は狂喜の様相の上昇を見せていました。
まあ、成立したといっても、以下のように、それでも高い関税のままではあります。
ロサンゼルス・デイリー・ニュースより
米国と中国は交渉が続く中、月曜日に一時的に(90日間)関税を引き下げることで合意した。
米国は中国製品への関税率を 145%から 30%に引き下げる一方、中国は早ければ水曜日から米国からの輸入品への関税を 125%から 10%に引き下げる予定だ。
以前、「夏までのアメリカの展望」という記事で、貿易協定が成立した場合でも、「物流の回復までには 1ヶ月かかる」ということにふれましたが、しかし、商品によっては、すでに年末商戦にまで重大なダメージがかかっているようです。
アメリカで販売されている玩具のほとんどは中国製ですが、マーケット・ウォッチに以下のように書かれていました。
マーケット・ウォッチより
中国製の玩具をクリスマスのホリデーシーズン前にアメリカの店頭に並べるには、玩具メーカーが製品デザインを確定し発注を行う 3月には生産を開始しなければならない。
通常、製造は 4月に開始され、7月までに中国の工場から商品が出荷され、秋の流通シーズン前にアメリカに到着する。小売業者は、この長期的かつ綿密に計画されたタイムラインに頼って、季節的な需要に対応している。
この「製造は 4月に開始され」という部分が停止していたわけで、オモチャだけではなく、他のさまざまなものにも、多少の影響は続くものなのかもしれません。
ちなみに、今回のタイトルは、アメリカのメディア記事にそういうタイトルがあったことからです。以下はその冒頭です。
記事「米中間の新たな関税合意は本当に存在するのか?それとも株価上昇のための見せかけなのか」より
米中貿易協定に関する今日のニュースの見出しにより、今日の米国株式市場は急騰した。
昨日(5月11日)早朝に貿易協定が成立したと報じられているにもかかわらず、米国と中国の両国が翌日の月曜日(5月12日)までは共同声明を発表しないと明言したのは、かなり奇妙に思えた。
彼らの発表が世界の株式市場に特に良い影響を与えることを望んだからだろうか? それも合意の一部だったのだろうか?
中国の英語ニュース局は、米国株式市場の開場と同時刻の今日、中国時間でほぼ真夜中になるまで、この合意についてコメントすらしなかった。
しかし、今日の中国と米国の声明を額面通りに受け取ると、中国からの輸入品には依然として 30%の関税がかかることになる。
しかし、投資家たちはまるで貿易戦争が終わったかのように行動している。
「口先」は安易で、誰でも何でも言える。しかし、現実世界で実際に何が起こっているかの証拠は、米国の港湾への交通量、中国からの商品の入手可能性、そしてそれらの商品の価格にある。
トランプ大統領は関税の本質について嘘をつき続けているため、この問題に関して彼の言うことを信じるのは難しい。
しかも、中国のほうも基本的にアメリカを(というよりトランプ大統領を)信用していないようであり、貿易協定の会議の前に、アメリカからの輸入(主に食糧)を他の国に振り分けていることを中国共産党の機関紙が報じていました。
中国の報道「中国、米中貿易会議前に米国製品の代替を加速」より
中国と米国は 5月10日、スイスのジュネーブで経済貿易問題に関する高官会合を開始した。会合は日曜日も続く予定であると、CGTN が日曜日に報じた。
中国は、スイスで行われる米中高官貿易協議を前に、米国製品の代替を加速させる動きを見せたと、国営中央テレビ局 CCTV 傘下のソーシャルメディアアカウント「玉淵丹天」が土曜日に報じた。
それによると、中国はジュネーブ協議の直前、アルゼンチンの輸出業者と大豆、トウモロコシ、植物油の購入に関する意向書に調印した。報道によると、ブラジル大統領府のルイ・コスタ首席補佐官も 4月下旬に中国を訪問した。
報道によると、中国は 4月初め、ブラジルから少なくとも 240万トンの大豆を購入する契約を結んだ。これは中国の月間平均大豆輸入量のほぼ 3分の 1に相当する。
ブルームバーグが 5月9日に報じたところによると、中国はアルゼンチンの輸出業者と、約 9億ドル (約 1300億円)分の大豆、トウモロコシ、植物油を購入する意向書に署名した。
中国は貿易交渉とは関係なく、着々と脱アメリカに向けて動いているようです。
私にもわかることとしては、トランプ大統領という人は、「いつどんなことを言い出すかわからない」人ですから、信用できる基盤がないのです。
こんなに世界を混乱させる大統領も珍しいですが、混乱するたびに、いろいろなところに亀裂が入っていきます。
サプライチェーンに起きている亀裂について、先ほど抜粋したマーケット・ウォッチ紙への寄稿記事をご紹介したいと思います。
書いたのは、南カリフォルニア大学法学部教授のアンジェラ・フユエ・チャンという方です。お名前からすると、中国系の人ですかね。
意見:株式市場は米中貿易協定を歓迎しているが、関税によるダメージはすでに発生している
Opinion: The stock market is cheering the U.S.-China trade deal, but the tariff damage is done
marketwatch.com 2025/05/12
投資家、政策立案者、消費者たちはトランプ大統領の行動の結果をまだ十分に認識していない。
中国のことわざにもあるように、一度虎に乗ると降りるのは困難だ
ホワイトハウスは 、米国と中国が 4月に相互に課した輸入関税を、貿易協定に関する更なる交渉が進むまでの間、一時的に停止または撤廃すると発表した。
この発表は企業にとって待望の救済策となり、市場の信頼感を高めたが、投資家は熱狂を抑えるのが賢明だろう。
ドナルド・トランプ大統領は、自身のビジネス経験を活かし、関税を交渉材料として利用している。関税を積極的にエスカレートさせれば、米国の貿易相手国は大幅な譲歩を迫られ、大きな政治的勝利を宣言できると確信しているようだ。
しかし、貿易協定の交渉は不動産取引の締結とは別物だ。そのプロセスはより遅く、複雑で、はるかに重大な影響を及ぼす。これは特に、米国が中国と交渉する際に当てはまる。
中国は巨大な経済力(したがって大きな影響力)を持ち、譲歩を差し控えることに強い関心を持っている。なぜなら、トランプ大統領の要求に屈すれば、国家のプライドが損なわれ、国内の反発を招く可能性があるからだ。
トランプ大統領はこれまで、疑わしい勝利を宣言してきた経歴を持つが、安易に譲歩すれば、中国との貿易戦争で勝利を主張するのは難しいだろう。中国には「一度虎に乗ると、降りるのは困難だ」ということわざがある。
以前、私たちが書いたように 、世界最大の二大経済大国間の貿易協定は作成が困難で、執行もほぼ不可能だろう。
2018年から 2019年にかけて、私たちはこのことをはっきりと目の当たりにした。
米国と中国は 2019年4月に原則合意に達したものの、条件の具体性をめぐる意見の相違から、最終的に交渉は決裂した。米国は、中国の国会で制定されるべき法改正を詳述した 150ページに及ぶ厳格な協定を要求したのに対し、中国は、より柔軟で原則に基づいた、目立たない規制措置を通じて実施できる枠組みを求めた。
さらに、執行上の課題もある。
2020年1月に米中が「第一段階」の貿易協定に署名した際、トランプ大統領はこれを歴史的な勝利と宣言し、中国が 2年間で米国の製品・サービスの購入を 2000億ドル (約 30兆円)増やすというコミットメントやその他の譲歩を称賛した。
しかし、典型的な貿易協定とは異なり、この協定には中立的な第三者による執行メカニズムがなかった。また、自主執行型でもなく、双方とも協定の遵守は離脱よりも有益だと考えていた。そのため、中国が購入目標を達成できなかったとき、当時ジョー・バイデン大統領率いる米国には、ほとんど手段がなかった。
現在、たとえ関税が短期的に撤廃されたとしても、トランプ大統領が生み出した甚大な不信感を考えると、中国は米国が約束を守り、実効性のある履行を行うと信じる理由がほとんどない。
結局のところ、米中が交渉するいかなる貿易協定も、脆弱で、範囲が限定的であり、破綻の危機に瀕する可能性が高いだろう。したがって、企業と投資家は、グローバルサプライチェーン全体にわたる継続的な混乱に備える必要がある。
トランプ大統領の貿易戦争はすでに世界のサプライチェーンに永続的な損害を与えている
実際、トランプ大統領の貿易戦争は、すでに世界のサプライチェーンに永続的なダメージを与えている。小売業者は注文のキャンセルに奔走し、メーカーや流通業者はルート変更や在庫の積み増しに奔走し、企業は不確実性が高まる中で事業を運営している。
小規模で短期的な変動が、不均衡かつ長期的な混乱、つまりサプライチェーン専門家が「ブルウィップ効果」(需要を予測しながら発注する形態の流通経路で見られる現象)と呼ぶものを引き起こす可能性があることが、これまで以上に明らかになっている。
この現象は、今年のクリスマスシーズンの見通しにも反映されている。
中国製の玩具をクリスマスのホリデーシーズン前にアメリカの店頭に並べるには、玩具メーカーが製品デザインを確定し発注を行う 3月には生産を開始しなければならない。
通常、製造は 4月に開始され、7月までに中国の工場から商品が出荷され、秋の流通シーズン前にアメリカに到着する。小売業者は、この長期的かつ綿密に計画されたタイムラインに頼って、季節的な需要に対応している。
変動する関税は、このプロセスのあらゆる段階に支障をきたす。予測不可能なコストに直面した小売業者は発注をためらい、生産と出荷を遅らせる。
サプライヤーは新たな機会を逃さずに生産ラインを再構築するため、関税の撤廃だけでは生産を軌道に戻すのに十分ではない可能性がある。
そのため、たとえ関税の撤廃によって需要が回復したとしても、供給不足は継続し、価格が上昇するだろう。トランプ大統領は最近の閣議で、この可能性を軽視しつつも認めている。
この混乱は自然災害や公衆衛生危機の結果ではなく、意図的な政策の産物である
さらに悪いことに、価格上昇はサプライヤーに誤った需要シグナルを送り、関税が本来対処すべき供給過剰という長期的な問題を悪化させる可能性がある。
この変動サイクル(ブルウィップ効果の特徴)は、持続的な不安定性を生み出す。結局のところ、人を殺すのは平均値ではなく、変動性なのだ。
COVID-19 のパンデミックの際にも、この力学に似た現象が見られた。突然の閉鎖により、世界のサプライチェーン全体に供給不足と供給過剰が連鎖的に発生し、その影響は何年も続いた。
今回の状況と異なるのは、今回の混乱が自然災害や公衆衛生危機の結果ではなく、意図的な政策の産物であるという点だ。
予測不可能性はトランプ大統領の個人的なビジネス取引においては有効だったかもしれないが、国際貿易においては甚大な混乱を引き起こす。サプライチェーンは、ブラフや突然の政策転換ではなく、透明性と確実性の上に成り立っているからだ。
トランプ大統領の関税が引き起こす混乱は、株式市場にとどまらず、世界中の工場、港湾、そして店舗に波及するだろう。投資家、政策立案者、そして消費者たちは、トランプ大統領の行動がもたらす結果をまだ十分に認識できていない。
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genkimaru1
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