https://note.com/hiroshi_arakawa/n/n76b7200b7105
<転載開始>
前回までシリーズとして掲載している「mRNAワクチンと免疫系【1】【2】【3】」とも関連するのですが、ワクチン後遺症にも含まれる自己免疫疾患の治療は可能になるのかを考察したいと思います。今回の記事はコロナワクチンから少し離れ、私自身の研究のお話をさせていただきます。 (「mRNAワクチンと免疫系」のシリーズはこの後もまた間をおいて続く予定です)。
さて、今回紹介させていただく研究とは、もともとコロナ騒動が始まる少し前に私の個人的な興味から始めたものです。私の親しい人が自己免疫疾患を発症したのですが、その時に自己免疫疾患の「根治療法」が存在しない事に改めて気付いたのです。そしてその後コロナ騒動が始まり、私はコロナワクチンの機序からも、今後の自己免疫疾患の増加を懸念しました。私の専門分野は分子生物学と免疫学ですが、中でも抗体遺伝子変換、体細胞突然変異の分子機構が本来の研究対象です。しかしながら、コロナ騒動の中で研究の興味も少しずつ変遷してきました。
本来、免疫システムとは内外からの病原体と戦うために人体に備わっている、いわば自然の防衛システムです。ところが誤作動などによりその攻撃の矛先が自己に対して向けられると、今度は皮肉にも自分自身の体を損傷する自己免疫疾患を引き起こす事態となります。そして事実上、現在に至るまで自己免疫疾患に対する治療法は基本的には症状の緩和を目的とした対症療法が中心であり、そのアプローチとはステロイドやサイトカイン阻害薬を含み、主に自己免疫疾患による炎症を抑制しようとするものです。しかしながら、これらの治療法では自己免疫疾患を引き起こす特定のB細胞自体は取り除かれず、残念ながら根治に至るものではありません。
B細胞と他の細胞の違いとは細胞の特異性です。多様な抗体も元をたどればそれぞれの抗体を産生しているB細胞があり、その抗体は細胞表面にも発現しています。従って、特定の細胞表面免疫グロブリン (sIg) を発現するB細胞を標的にできるならば、病原性B細胞群を選択的に除去する事も可能になるでしょう。
自己免疫疾患の根治療法を目的とした私自身の基礎研究を紹介させていただきます。掲載誌のNAR Molecular Medicineは、Nucleic Acids Research誌の姉妹紙であり2024年に創刊された新しいジャーナルです。(そのため現時点ではPubmedに反映されておりませんが、近く反映させるように編集部の方では動いているとのお話です。)
以下が論文のリンクです↓
https://academic.oup.com/narmolmed/article/2/2/ugaf016/8123394?login=true
IgAim: cell surface Ig-aimed immune memory erasers for the therapy of autoimmune diseases and B leukemia
Hiroshi Arakawa (2025) NAR Molecular Medicine
IgAim:自己免疫疾患およびB細胞性白血病の治療のための細胞表面抗体を標的とした免疫記憶消去法

白血病、リンパ腫、または自己免疫疾患などのB細胞疾患は、抗体多様性の副作用として発生し、免疫系の「悪い記憶」として残る。しかし、意識的に何かを忘れようとする事は、覚える事よりもはるかに困難である。トラウマを経験した人々の脳に保存された記憶を考慮すると、悪い記憶以外は無くてはならないものである。細胞表面免疫グロブリン (Ig) 標的免疫記憶消去法 (Ig-Aimed Immune Memory eraser; IgAim) は、B細胞の表面の抗体を標的とする事で、B細胞レパートリーから悪い記憶を選択的に除去する事を目的としている (図1)。IgAim技術は、B細胞白血病、リンパ腫、自己免疫疾患の根治療法開発のための基礎研究である。
自己免疫疾患の病状は多様ですが、原因となる機序そのものはシンプルです。自己抗体の標的分子を発現している臓器や細胞を自己抗体が攻撃する事によってそれぞれの自己免疫疾患に特有の病状を発現させます。また現在は自己免疫疾患としては約80種類ほどが知られていますが、原理的には人間を構成するどの遺伝子産物に対しても自己抗体は生じ得るため、名前の付けられていない自己免疫疾患や症状も実際には相当数あるであろうと私は考えています。
自己免疫疾患は代表的なB細胞病であり、B細胞白血病やリンパ腫もB細胞の病気です。しかしそれらは百万種類のB細胞の中のわずか1〜数種類のB細胞を原因としており、他のB細胞は依然として生体防御に重要な役割を担っています。

抗体の多様性とは驚くべきものであり、ほぼ無限種類の抗原と結合する事が可能です。そしてその多様性とは、個々のB細胞のゲノムを編集する複雑なメカニズムに依存しています。抗体の可変領域はV(D)J組換えにより生成され、抗原曝露後の体細胞超変異によりさらに修飾され、親和性を高めます。ヒト抗体は可変領域の多様性に加え、5つの異なる定常領域のクラスを持ち合わせます。
抗体クラスの中でもIgMは、B細胞分化において最初に発現します。未熟なIgM B細胞は抗原に遭遇していない存在であり、細胞集団の中では少数派ですが、B細胞レパートリー (抗原特異的なB細胞の種類) としては圧倒的多数派を占めます。一方、IgGは血液中で最も豊富な抗体であり、免疫グロブリンクラスの中で最も長い血清半減期を有します。そしてIgAはウイルスや細菌から粘膜表面を保護するという重要な役割を持ちます。またIgEは最も稀なクラスであり、主に寄生虫感染に対して反応しますが、アレルギーやアナフィラキシーとも関連しています。そのため、細胞表面抗体 (sIg) の抗原特異性とクラスによって各B細胞を区別する事が可能です (図2)。
人間の体内には実に百万種類以上の抗体が存在し、それぞれの抗体を分泌する百万種類以上のB細胞が存在します。抗体には2つの形態があり、一つは血中を循環する分泌型の抗体、もう一つは細胞表面型の抗体です。これを例えるならば、分泌型の抗体を艦載機とすれば、その抗体を産生するB細胞はその母艦である空母のようなものなのですが、その抗原特異性は同一であり、細胞表面型抗体はその空母を識別するマーカーともなります。
抗体遺伝子組換え機構によって多様化した抗体は、外来病原体や癌に対する適応免疫応答において重要な役割を果たします。その反面、有害な抗体を産生するB細胞は、癌、アレルギー、自己免疫疾患などといった数多くの病気の原因となります。そしてこれらのB細胞関連疾患の治療では、しばしば非特異的、つまり無差別にB細胞全体を標的とする手段が採用されます。例えばB細胞白血病などに対する治療としては、抗CD19抗体製剤のように全てのB細胞を殺傷する方法が取られます。また同じ目的として抗CD19 CAR-T細胞療法も研究が進められています。しかしながらこうした治療法では、病原性細胞と共に健常なB細胞をも除去するため、結果的にB細胞免疫不全の原因ともなってしまうのです。
ここで注目すべきは、これらの疾患に関与する病原性B細胞は、その特定のB細胞集団の安定した生物学的マーカーとして機能する独自の免疫グロブリンを発現する単一のB細胞から由来する事が多いという点です。
細胞表面抗体が抗原に結合すると、エンドサイトーシスにより抗原抗体複合体は細胞内に取り込まれますが、これは抗原をクラスII MHCとともにヘルパーT細胞に提示するためです。細胞表面抗体は細胞内に取り込まれる機序を持つ上にクローン特異的であり、唯一無二のB細胞の目印となる細胞表面免疫グロブリンは、B細胞病の根治療法開発のための手がかりとなります。したがって、独自の細胞表面免疫グロブリン (sIg) を発現するB細胞を明確に標的とし、調整が容易な治療アプローチの開発は、従来の治療法に代わる安全な選択肢を提供し、病原性B細胞集団の選択的除去を可能にします。
本研究では、B細胞の生物学的特性とジフテリア毒素の細胞溶解効果を組み合わせた戦略を採用し、特定のB細胞群を標的とする技術を「Ig-Aimed Immune Memory eraser (IgAim)」と命名しました。IgAimは、抗原特異性とIgクラスに基づくB細胞群の認識と除去における特異性と有効性がin vitroで検討されました。
IgAim: 細胞表面Ig標的免疫記憶消去剤

各B細胞は、発現する抗体の抗原特異性またはクラスによって区別されます (図3)。抗体に結合したIgAimは、受容体介在性エンドサイトーシスを介してエンドソームに輸送されます。エンドソームの酸性pHは、移行領域と膜の構造変化を引き起こし、翻訳阻害ドメインが細胞質に放出されます。
IgAimG: sIgG+ B細胞消去剤

IgAimGはジフテリア毒素の受容体結合領域を黄色ブドウ球菌タンパク質A (Staphylococcal protein A (SpA)) で置き換える事で作成されました。sIgG+ B細胞株を含む細胞株をIgAimG存在下で3日間培養しました。IgAimGは高濃度 (1 µg/ml) でも非IgG発現細胞に対して細胞毒性を示しませんでしたが、低濃度 (0.01 µg/ml) ではsIgG+ B細胞を効率的に殺傷しました (図4)。実際、IgAimGはIgG3 B細胞株DBを除くすべてのsIgG+ B細胞株に対して強力な細胞毒性を示しました。IgAimGはsIg-、sIgM+、およびsIgA+ B細胞株 (sIgG- B細胞株) に対して毒性を示しませんでした。さらにIgAimGはさまざまな臓器由来の非B細胞株に対しても毒性を示しませんでした。
IgAimA: sIgA+ B細胞除去剤

前述の黄色ブドウ球菌タンパク質A (SpA) の表面残基13個が置換される事により、標的タンパク質への結合特異性が変化する事が知られていますが、SpAの13アミノ酸をランダムに変化させ、結合特異性の変化に基づいて選択されたタンパク質をアフィボディと呼びます。アフィボディは抗体と同様に多様な結合特異性を有するように設計されています。これらのアフィボディのうち、ZigAはIgAに特異的に結合し、IgGには結合しないようにデザインされています。ジフテリア毒素の受容体結合ドメインをZigAのタンデムリピートで置き換えたものが、ヒトIgAに特異的に結合するIgAimAです。IgAimAは、0.01 µg/mlの濃度でIgA+ B細胞のほぼ99%を効果的に殺傷しました (図5)。注目すべきは、IgAimAの毒性はIgA+ B細胞株に特異的であった事です。他のB細胞クラスや非B細胞株はIgAimAの影響を受けませんでした (図5)。
IgAimP7: アレルギー性花粉抗原p7に対するB細胞除去剤

抗原特異的B細胞を選択的に除去するため、ジフテリア毒素の受容体結合ドメインをアレルギー性花粉抗原Phl p7に置き換えました (IgAimP7) (図6)。この毒素は抗p7抗体を発現するB細胞を特異的に殺傷し、親細胞株や非特異的sIgG+ B細胞株に対して毒性を示しませんでした。
混合B細胞系からのB細胞の選択的除去

IgAimが特定のB細胞を選択的に除去するかどうかを確定するため、3種類の異なるB細胞系を共培養しました:sIgG+ B細胞株anti-P7 Raji、sIgM+ B細胞株Ramos、およびsIgA+ B細胞株U-2904。各細胞株はanti-IgGおよびanti-IgA抗体で染色され、結果3つの異なるクラスターが得られました (図5)。これらの混合細胞株を、1 µg/mlのIgAimG、IgAimA、IgAimP7を添加した培地、またはIgAimを含まない培地で3日間培養後、各細胞株の割合をフローサイトメトリーで解析しました。IgAimGはsIgG+ B細胞株anti-P7 Rajiを選択的に除去し、RamosとU-2904には無害でした (図7)。同様にIgAimAはsIgA+ B細胞株U-2904を選択的に除去し、他の細胞に明らかな損傷や減少は認められませんでした。抗P7 Rajiは、P7抗原特異的なIgAimP7によっても選択的に除去されました。このようにIgAimは対象となるB細胞以外には明らかな毒性は認められず、IgAimによって細胞が死ぬ際に他の細胞を巻き込んで殺すような作用は見られませんでした。
末梢血単核球 (PBMC)からの一次B細胞の選択的除去

IgAimが特定のクラスに属する一次B細胞を選択的に除去できるかどうかを調べるため、末梢血単核球 (PBMC) をIgAimG、IgAimA (1 µg/ml) またはIgAim無しの条件下で3日間培養しました。IgAimGは末梢血B細胞からsIgG+ B細胞を選択的に除去し、その割合を7.42%から0.54%に減少させましたが、sIgA+細胞とsIgG- B細胞の割合は維持されました (図8)。同様に、IgAimAは一次B細胞からsIgA+ B細胞を選択的に除去し、sIgA+ B細胞の割合を5.49%から0.22%に減少させながら、sIgG+細胞とsIgA- B細胞を維持しました。このようにIgAimはB細胞株だけではなく、末梢血由来の正常B細胞にも効果が認められ、標的特異的に特定のクラスのB細胞を除去できました。
本研究では、B細胞表面の抗体を特異的に標的とするカスタマイズ可能な技術であるIgAimを開発しました。IgAimは、抗原結合部位を標的とする事で単クローン性B細胞群を排除するように調整可能であり、あるいは、より広範にすべてのB細胞クラスを排除するために使用できます。
ここで使われている「免疫記憶」という用語は、従来の記憶B細胞を指すものではなく、またIgAimの目的はすべての免疫記憶を除去する事ではありません。例え話になりますが、トラウマを経験した人の脳内には悪い記憶だけがあるのではありません。他の重要な記憶も存在します。たとえどれほど消し去りたいようなトラウマ的記憶があったとしても、それでは脳内の全ての記憶を抹消すれば良いのか?という事です。gAimはB細胞レパートリーから「悪い記憶」を選択的に除去する事を目的としています。
生体内では細胞表面抗体のみではなく、血中に循環する抗体もIgAimへの結合に競合し得ます。遊離の抗体によってIgAimの細胞障害性が減少する反面、IgAimは遊離の抗体も不活化できるかもしれません。遊離抗体の阻害効果が高い場合は、抗体を分泌するプラズマ細胞の除去とIgAim投与を組み合わせると効果が上がるでしょう。IgAimの反復投与は、IgAimのジフテリア毒素ドメインに対する抗体を誘導し、その活性を阻害する可能性がありますが、これらの抗体を産生するB細胞の破壊により、この反応が補償されるかもしれません。生理的な条件下でのIgAim戦略の安全性および有効性をより良く理解するためには今後のin vivo研究が重要になります。
IgAimは、抗原特異的B細胞を正確に標的化し除去する事で、有害な免疫記憶を排除する有用なツールとなる可能性があります。
私はこのIgAim技術に関連する国際特許を出願しています。
Arakawa H. (2024) Cell surface Ig-Aimed Immune Memory erasers and uses thereof (EP24174521).
細胞表面免疫グロブリン (Ig) 標的免疫記憶消去法とその用途。
IgAimの技術は、免疫記憶の選択的な消去が原理的に可能である事を示しています。繰り返しになりますが、現状では自己免疫疾患に対する根治療法は存在せず、炎症の抑制といった対症療法が主流です。そしてまた、治療用抗体やCAR-T細胞を用いて全B細胞を殺傷するようなB細胞疾患「治療法」が先端臨床研究の最前線にあるのが現実です。その上、CAR-T細胞療法は特殊な遺伝子治療でもあります。遺伝子治療に頼らずに、しかも特定の記憶を消去できる治療法を開発したいと私自身は考えています。
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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
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