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<転載開始>
事の成り行きによってはかって自分が述べた事柄、あるいは、自分が統括する組織が行った行動に関して前言を翻し、修正せざるを得ないような場面は誰の人生においても起こり得ることだ。それは倫理的内省や事実の認識における修正を求める意欲によってもたらされる。あるいは、口を滑らせて、思いがけずに内心を暴露してしまうこともある。
ここに「NATOの拡大がウクライナに対するロシア侵攻の引き金であった ー NATO事務総長が認める」と題された記事がある(注1)。
これは2年前の記事ではあるが、今日現在も本質的に非常に重要な内容である。このことから、本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
本ブログを読んでいただいている読者の皆さんはすでにロシア・ウクライナ戦争の歴史的状況を適切に弁えていらっしゃると思う。しかしながら、巷には、今でさえも、「ロシアが、突然、何の前触れもなくウクライナへ侵攻して来た」といった西側の反ロ強硬派の当時のプロパガンダを鵜呑みにして、それを何の臆面もなく繰り返す人たちがいる。皆さんの身の周りの方々ともこの投稿を共有していただければ幸いである。ロシア・ウクライナ戦争をより良く理解しようとする際、この記事の情報は基本的に重要な気付きをもたらしてくれるのではないかと私は思う。
NATO拡大に固執し続けることは非常に無責任で、偽善的でさえある。そして、今、ウクライナの人々が途方もない代償を支払っている。
悲惨なベトナム戦争の最中、米国政府は国民をキノコ農場のように扱っていたと言われている:暗闇で栽培し、肥料を与えて育てるのである(訳注:ここでは、キノコとはスーパーマーケットで頻繁に見る白いアガリカスマッシュルームを指す)。英雄的なダニエル・エルズバーグは、政治家たちが真実によって困惑しないようにするために政府がいかに戦争について嘘をつき続けたかを記録した「ペンタゴン文書」をリークした(訳注:当時、ダニエル・エルズバーグはランド研究所で軍事関係の分析専門家として働いていたが、ペンタゴンの極秘文書をニューヨークタイムズやワシントンポストへリークした)。半世紀後の今、ウクライナ戦争においては、その肥料はあの時以上に高々と積み上げられている。
米国政府や常にお世辞たらたらのニューヨークタイムズによれば、ウクライナ戦争は「挑発された結果起こったものではない」としている。この表現はタイムズ紙が戦争を表現する際のお好みの形容詞だ。自分自身をピョートル大帝であると勘違いしたプーチンはロシア帝国を再建するためにウクライナに侵攻した。しかし、先週(2023年9月)、NATO事務総長であるイェンス・ストルテンベルグはとんでもない失言をしてしまった。つまり、事実をうっかり口にしてしまったのだ。
ストルテンベルグは欧州連合議会での証言において、ウクライナへのNATO拡大という米国が行って来た絶え間のない推進こそが戦争の真の原因であり、今日まで戦争が続いている理由であると明言した。以下はストルテンベルグの衝撃的な発言である:
「背景としては、プーチン大統領が2021年の秋に声明を出し、実際にNATOに署名して欲しいという条約案を送ってきた。それは、NATOの拡大をこれ以上行わないという約束を求めるものであった。それこそが彼が私たちに送ってきたものであった。そして、それはウクライナへの侵攻をしないための前提条件でもあった。当然、私たちはその条約には署名しなかった。
逆のことが起こった。彼は私たちにその約束に署名させたかったのである。すなわち、NATOをこれ以上拡大しないという約束である。彼は1997年以降にNATOに加盟したすべての同盟国から私たちの軍事インフラを撤去することを求めてきた。つまり、NATOの半分、中欧および東欧の全域からNATOを撤退させ、何らかのBクラス、あるいは二流のメンバーシップを導入しようというものであった。私たちはそれを拒否した。」
つまり、彼は自国の国境に近づくNATOの拡大を防ぐために戦争に行ったのである。しかし、現実にはその正反対の結果になった。
繰り返して言うと、彼(プーチン)は国境近くでのNATOの拡大を防ぐために戦争を始めた。ジョン・ミアシャイマー教授や私、そして他の人たちがこれと同じことを言った時、私たちはプーチンの擁護者であるとレッテルを貼られ、非難された。批評家たちは、米国の著名な外交官であり偉大な学者で国家主義者でもあるジョージ・ケナンや元駐ロシア米国大使のジャック・マトロックやウィリアム・バーンズが長年にわたって述べてきたウクライナへのNATO拡大に反対する深刻な警告を隠したり、完全に無視することを選んだ。
バーンズは現在CIA長官であり、2008年には米国のロシア大使を務め、「」という題名の覚書の著者でもある。その覚書の中で、バーンズは国務長官コンデリーザ・ライスに対して、プーチンだけではなくロシアの政治階級全体がNATOの拡大に強く反対していることを説明した。何故この覚書のことを知っているのかと言うと、それがリークされたからに過ぎない。そうでなければ、私たちはそれについて何も知ることはできなかったであろう。
ロシアは何故NATOの拡大に反対するのか?その理由は単純で、ロシアがウクライナとの2,300キロにわたる国境、特に黒海地域での米軍の存在は受け入れられないからである。さらに、米国が弾道ミサイル防衛(ABM)条約を一方的に破棄した後、ポーランドやルーマニアにイージス防空ミサイルシステムを配備したことにロシアは不快感を抱いている。
また、ロシアは米国が冷戦期(1947年から1989年)に少なくとも70回も政権交代作戦を行い、その後もセルビア、アフガニスタン、ジョージア、イラク、シリア、リビア、ベネズエラ、ウクライナなどで数え切れないほどの作戦を行ってきた事実を歓迎してはいない。さらには、多くの米国の有力政治家らが「ロシアの脱植民地化」という名のもとにロシアの破壊を積極的に主張していることも、ロシアにとっては好ましくはない事実である。それは、あたかもロシアがテキサス州やカリフォルニア州、ハワイ州、征服されたインディアンの土地、その他多数の地域を米国から取り除くべきだと主張するようなものだ。
ゼレンスキーのチームでさえもがNATO拡大を追求することはロシアとの差し迫った戦争を意味することを理解していた。ゼレンスキー政権下でウクライナ大統領府の元顧問であるオレクシー・アレストヴィチは「NATO加盟の代償として、99.9%の確率でロシアとの大規模な戦争が待っている」と宣言した。
アレストビッチは、たとえNATOの拡大がなくても、ロシアは最終的にウクライナを取りに行くだろうと主張したが、それは何年も後のことになるだろうとも述べていた。しかし、歴史は必ずしもそれを裏付けてはいない。ロシアはフィンランドやオーストリアの中立を何十年にもわたって尊重しており、重大な脅威も侵略も起こさなかった。さらには、ウクライナの独立(1991年)から米国が支援したクーデターを通じて選挙で選ばれていたウクライナ政府を転覆した時(2014年のマイダン革命)に至るまで、ロシアはウクライナ領土を取ることにまったく関心を示さなかった。ロシアがクリミア半島を取り戻したのは、2014年2月に米国が親ロシア政権に反対し、NATO寄りの政権を樹立した時だけであり、クリミアの黒海艦隊基地(1783年以降)がNATOの手に渡ることを懸念したためであった。
それでも、ロシアはウクライナに他の領土を要求せず、国連支持の「ミンスク合意II」の履行だけを求めた。この合意は領土に対するロシアの主張ではなく、ロシア系住民の多いドンバスの自治を求めるものであった。しかしながら、米国は外交の代わりにウクライナの軍隊を武装させ、訓練し、組織化を支援し、NATO拡大を既成事実化しようとした。
プーチンは2021年末に外交の最後の試みを行い、戦争を防ぐために」を提示した。この協定案の核心はNATO拡大の停止とロシア近辺にある米国のミサイルの撤去であった。ロシアの安全保障上の懸念は正当であり、交渉の基盤となるものであった。しかし、バイデンは傲慢さや好戦的な姿勢、そして、深い計算違いの組み合わせから交渉を完全に拒否した。NATOはNATOの拡大に関してはロシアと交渉しないという立場を維持し、実質的にはNATOの拡大はロシアには関係ないという立場を取っていた。
米国のNATO拡大に対する執拗な執着は非常に無責任で偽善的である。米国は西半球にロシアや中国の軍事基地が配置されることには戦争も辞さず、猛烈に反対することであろう。この点は1823年のモンロー主義以降、米国が主張してきたことである。しかし、米国は他国の正当な安全保障上の懸念に関しては盲目を決め込み、耳を貸さないのである。
つまり、プーチンは、NATOがさらにロシアの国境に近づくことを防ぐためにウクライナ戦争を開始したのである。ウクライナは米国の傲慢さによって破壊されており、再びヘンリー・キッシンジャーの格言が証明されている。つまり、アメリカの敵であることは危険であり、アメリカの友であることは致命的であると。ウクライナ戦争は、米国が単純な真実を認めるときに終わることであろう。ウクライナへのNATO拡大は永続的な戦争とウクライナの破壊を意味するということだ。ウクライナの中立性は戦争を回避する可能性があり、平和への鍵となり続けている。より深い真実は、欧州の安全は一方的なNATOの要求ではなく、欧州安全保障協力機構(OSCE)が求める集団的安全保障に依存しているということなのである。
これで全文の仮訳が終了した。
「何の挑発もなかったのに、突然ウクライナ侵攻を行ったロシアが悪い、プーチンは大悪党だ」という2022年当時の西側の主張は正真正銘のプロパガンダであった。ウクライナに対する突然の侵攻の代わりに、ロシアは、2008年以降2022年のウクライナに対する特別軍事作戦に至るまで、外交ルートを経てNATOの東方への拡大を中断するよう何度も求めていたが、西側はロシアの提言を拒否し続けた。この西側の態度は極めて傲慢で、引用記事の著者が述べているように、非常に無責任であり偽善的であった。
このような理解は本ブログが2014年以降主張してきた核心的な要素である。この引用記事を読むと、ロシア側の提案に対して西側はロシアを経済的、政治的、軍事的に屈服させ、その結果として自分たちがロシアの天然資源をタダ同然で入手できるようにするという西側の金儲けの精神構造やさまざまな隠された政治的目標に支配され、政治家たちはまさに夢遊病者のように行動していたことが手に取るように見える。
この引用記事の著者の主たる論点は「ストルテンベルグ(NATO事務総長)は欧州連合議会での証言において、ウクライナへのNATO拡大という米国が行って来た絶え間のない推進こそが戦争の真の原因であり、今日まで戦争が続いている理由であると明言した」という点にある。
さまざまな夢遊病者のような行動がウクライナに強いた代償はあまりにも大きい。現時点でのウクライナ兵の死者数は150万人とも報じられている。何百万人ものウクライナ市民が国外へ避難している。そして、死者数は、今も、毎日増え続けている。ウクライナでは18歳や19歳の学生が徴兵されている。一方、西側では経済的後退の中、避難民を受け入れて来た西側諸国には疲労感が見える。最大の皮肉は西側がウクライナへの支援を続ければ続ける程ウクライナでは死者数が増えて行くという点だ。大きな悲劇である。
そして、一歩下がって、歴史的な意味合いを探そうとすると、米帝国主義への依存は何を意味するのかに関してのキシンジャーの言葉が光っている:「アメリカの敵であることは危険であり、アメリカの友であることは致命的である。」この言葉はウクライナの今日の姿を余りなく描写している。
ここに、ひとつの疑念が必然的に起こる:米国に依存する東アジアの国、日本はどうであろうか?日本も、ウクライナと同様に、対中戦争において悲惨な代償を払わされるのではないか?おそらく、これはそんなことが起こるのだろうかという話ではない。むしろ、そのような状況はいったい何時起こるのかという点の方がより現実味があり、的を射た問い掛けなのである。
長年にわたって米帝国主義の中枢に居ながらも、第三者的な姿勢を取り、このような客観的に世界を見据えることが出来たキシンジャーはやはり非凡である。怪物でさえもある。まさに文明史的な名言であると言えよう!
この言葉を存分に味わっていただきたいと思う。誰もが個人としてそれぞれ違った体験をし、異なる世界観を抱き、政治的見解はお互いに大きく異なるであろうが、戦後80年間、台風が過ぎ去るのを頭を低くして過ごして来た日本人の多くにとっては目の覚めるような言葉だ。この言葉に出遭い、読者の皆さんと共有することができただけでも、本投稿の価値は極めて大きいと思う。
米国においてはジョン・ミアシャイマー教授と並ぶトップクラスの論客のひとりで、この引用記事の著者でもあるジェフリー・サックス教授には感謝の意を表したい。彼の見解はユーチューブ動画としても数多く掲載されている。たとえば、グレン・ディーセン教授との最近の対談「NATOの戦争屋たちと世界は戦争寸前」は実に興味深い。
参照:
注1:NATO Chief Admits NATO Expansion Was Key to Russian Invasion of Ukraine: By By Jeffrey D. Sachs, Common Dreams, Sep/20/2023
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