yocchan_no_blog3さんのサイトより
https://yocchan-no-blog3.blog.jp/archives/10990921.html
<転載開始>

ウクライナにおけるNATO諸国による対ロ代理戦争の行方は、今や、ますます鮮明になりつつある。すなわち、グローバロストたちがどのような政治的歪曲をしようとも、地上の現実はロシアの勝ち、ウクライナ・NATO側の負けが現実のものとなりそう。ところが、ウクライナにとっては、ウクライナを支援してきた米国にとっても、また、ヨーロッパの有志連合にとっても簡単にこの敗北を認めることはできない。それはリーダーたちが避けては通れない政治的立場や国内事情があるからだ。それぞれが自分に有利なシナリオでロシアとの和平を模索しようとしている。

そんな中で、政治やイデオロギーによって歪曲されずに、ウクライナ戦争を客観的に観察し続けて来た専門家のひとりがシカゴ大学のジョン・ミア―シャイマー教授である。

マイダン革命が起こった年、つまり、2014年の9月1日私は「ウクライナ危機を招いたのは西側であって、プーチンではない」という表題で「芳ちゃんのブログ」(yocchan31.Blogspot.com)へ投稿した。あの投稿はジョン・ミア―シャイマー教授の記事をベースにしたものであった。米国の対外政策に関してはもっとも大きな影響力を有するシンクタンクである「外交問題評議会」からの報告としては異例の内容であった。つまり、同教授はイデオロギーに囚われない姿勢でマイダン革命を客観的に直視していた数少ない国際問題専門家の一面を遺憾なく発揮していたのである。

ここに同教授が、一カ月程前の11月11日、ヨーロッパ議会で第3党の位置を占める「欧州愛国者党」という会派の会合で行った講演録がある。「ジョン・ミアシャイマー教授がヨーロッパの暗い将来に関してEU議会にて講演」と題されている(注1)。

本日はこの講演録を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

かなり長い記事なので、2部に分けてご紹介する。

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Picture1

Photo-1:この講演は2025年11月11日に欧州議会で行われた。米国の政治学者で国際関係学者でもあるジョン・ミアーシャイマーの「欧州の暗い未来」と題された講演の書き起こしであ

開会の挨拶(発言者の名前は不明):

紳士淑女の皆様、同僚の諸君、そして、ゲストの皆様、100年以上前のこの日、11月11日、他のすべての戦争を終わらせることを目的とした休戦協定が調印されました。どうやって人類はそこにたどり着いたのかと疑問に思う人がいるかも知れません。結局のところ、各国の協調によってほぼ一世紀にわたる相対的に平和な時代が確保されたのです。ヨーロッパ諸国はこれまで相互に、あるいは、世界の他の国々とこれほど広範に貿易したことはありませんでした。誰も戦争には興味を持ってはいないかのようでした。

それでも、それは再びやって来ました。クリストファー・クラークが適切に表現したように、「夢遊病者」がやって来たのです。休戦は終結ではなく、紛争の根本原因が解決されてはいなかったため、単なる一時停止に過ぎなかったことが判明しました。第一次世界大戦では兵士が大量に死亡しましたが、この工業化された戦争の方法は第二次世界大戦では全国民に対して無差別に適用されることになりました。30年に及ぶ欧州同胞戦争により、私たちの大陸は軍事的に破壊され、経済的に破滅し、道徳的に破産し、政治的に征服され、完全に荒廃しました。

第二次世界大戦の焼け跡から、二極化した世界秩序が出現しました。ヨーロッパ諸国はそれぞれ、いわゆる自由な西側、あるいは、共産主義的な東側に属し、それぞれに特有な政治や軍事、経済の構造に従事するようになりました。共産主義の崩壊により、私たちは米国の主導、リベラルな価値観、自由貿易、国際関係制度によって導かれる一極世界に入りました。しかし、その時代は中国の台頭、金融危機、イスラム主義テロの惨劇によって終わりを迎えました。多極化の時代に突入したのです。

欧州連合の戦略的ジレンマ:

これは欧州連合などの欧州諸国を包含する構造が必然的にこの新しい時代に適応しなければならないことを意味するものです。

しかし、欧州連合は一貫してその現実を否定しているかのようです。ウルズラ・フォン・デア・ライエンの政策は、欧州連合における戦略的自治を目指すと主張していますが、それでもEUの気候変動政策により中国のレアアース材料に依存し、私たちの大陸における工業生産を海外に追い出しています。これは依存と中流階級の劣化に繋がります。

欧州連合は高尚なリベラル道徳主義によってロシアのウクライナ侵攻に対抗してきましたが、そのような道徳主義を信頼できるものにするために必要なハードパワーを私たちは持ち合わせてはいません。その結果、私たちは戦争努力を継続するために米国から供給される兵器に依存しています。これにより、トランプ大統領は非常に不利な貿易条件を私たちに課すことが可能となり、ここでも、再び依存と中間層の劣悪化に繋がることになります。

欧州連合は自らの戦略的選択の虜になってしまっています。欧州連合の設立の約束は経済協力を通じて大陸の平和、安全、繁栄を確保することでした。しかし、実際には、その政策は戦争、治安の不安、貧困をもたらしています。

ミアーシャイマー教授のご紹介:

欧州議会の議員として、私は毎月ストラスブールに出張するという怪しげな特権に恵まれています。このような長い車の旅は退屈な場合があり、時間の無駄であると考えられることがしばしばあります。だが、私にとっては、こうした旅は本当に楽しいものでもあるのです。車に乗る時はいつも、サブスタックにあるジョン・ミアーシャイマー教授の洞察力に富んだポッドキャストを聴いています。その鋭い分析と深い洞察は豊富な歴史的知識と学術的専門知識に根ざしています。それは政治的議論に必要な声をもたらし、現代の紛争の複雑さを理解するために不可欠な要件を与えてくれます。

ミアーシャイマー教授は真の知の巨人であって、今日も地球上を歩いておられ、彼の専門領域では数少ない専門家の一人であります。ミアーシャイマー教授は 1970年に陸軍士官学校を卒業し、米空軍で 5年間勤務しました。彼は 1980年にコーネル大学で博士号を取得し、1982年からシカゴ大学の教授を務めています。

したがって、ここ欧州連合の中心に「欧州愛国者財団」を代表してあなたをお迎えし、ウクライナ戦争と欧州の今後の進むべき道についての見識を共有できることを大変光栄に存じますし、大変嬉しく思います。ミアーシャイマー教授、フロアはすべてがあなたのものです。

 

ミア―シャイマー教授の講演

ジョン・ミア―シャイマー:

トム、親切なご紹介をしていただき、ありがとうございました。本日、欧州議会でお話しできることを大変嬉しく、かつ、光栄に思います。そして、私をここで講演するよう招待してくれた欧州愛国者党に感謝します。また、私の講演を聞きに来てくれた皆さんにも感謝します。

ヨーロッパは、今日、主にウクライナ戦争のせいで深刻な危機に陥っています。ウクライナ戦争はこれまではほぼ平和であった地域を弱体化させるという場面で重要な役割を担っています。残念ながら、この状況は今後数年間で改善する見込みはありません。実際、ヨーロッパは、今後、現在よりも不安定になる可能性があります。

欧州の現在の状況は、ソ連崩壊の翌年である1992年から中国とロシアが大国として台頭し、一極支配が多極化に変わる2017年頃に至るまで、一極支配の時期に欧州が享受していた前例のない安定性とは顕著な対照をなしています。

私たちは皆が1989年(訳注:この年、ベルリンの壁が崩壊し、冷戦構造に大きなヒビが入った)に書かれたフランシス・フクヤマの有名な論文「歴史の終わり」を覚えています。その論文は、自由民主主義は世界中に広がり、その結果として平和と繁栄をもたらす運命にあると主張した。その議論は明らかに完全に間違っていたが、西側諸国の多くはそれを20年以上にわたって信じて来た。一極支配の全盛期の頃、ヨーロッパが、今日、これほどの困難に陥ると想像するヨーロッパ人はほとんどいなかった。

いったい何が間違っていたのか?

そこで、今、テーブルの上にある質問はいったい何が問題であったのかということです。ウクライナ戦争は、西側諸国、特に米国によって引き起こされたものであり、今日の欧州の不安定さの主な原因であると私は主張します。とは言え、二番目の要因も作用しています。それは、2017 年の世界的な力のバランスが一極支配から多極化へと変化し、これが欧州の安全保障構造を脅かすことは確実でありました。

それでも、この権力配分の変化は管理可能であると考えるに十分な理由があります。しかしながら、ウクライナ戦争は多極化の到来と相まって、予見可能な将来に消える見込みがないような大きな問題を確実にしたのです。

まず、一極支配の終焉が欧州の安定性の基盤をどのように脅かしているのかを説明したいと思います。次に、ウクライナ戦争がヨーロッパに与えた影響とそれがどのように多極化への移行へと影響し、ヨーロッパの情勢を大きく変えて行ったのかについて議論します。

米国の調停者としての役割とヨーロッパの安定性:

冷戦時代のヨーロッパ、そして、一極支配時代のヨーロッパ全体の安定性を維持する鍵となったのはヨーロッパにおける米軍の存在であります。もちろん、それはNATOに組み込まれていました。米国が当初からこの同盟を支配してきたため、米国の安全保障の傘の下にある同盟国がお互いに戦うことはほぼ不可能でした。事実上、米国は欧州における強力な平和勢力となっていました。

今日のヨーロッパのエリートたちはその単純な事実をよく認識しており、これがなぜ彼らがヨーロッパに米軍を駐留させ、米国主導のNATOを維持することに深く関わっているのかを説明しています。冷戦が終わり、ソ連が東ヨーロッパから軍隊を撤退させ、ワルシャワ条約機構を終わらせようとしていたとき、ロシア政府は米国主導のNATOが無傷で残ることに反対しなかったことは注目に値する。当時の西ヨーロッパ諸国と同様に、ソビエトの指導者たちはなだめの論理を理解し、高く評価していた。しかし、彼らはNATOの拡大には断固として反対しましたが、それについては後で詳しく説明します。

NATOではなくEU、この機関が一極支配の時代のヨーロッパの安定性の主な理由であったと主張する人がいるかも知れない。だからこそ、2012年にNATOではなくEUがノーベル平和賞を受賞したのである。しかし、この主張は間違いだ。 EU は目覚ましい成功を収めた組織ではありますが、その成功は NATO がヨーロッパの平和を維持できるかどうかにかかっていたのです。

マルクスの考えをひっくり返すと、政治と軍事組織(ここでは NATO について話しています)は基礎または基盤であり、経済制度(ここでは EU について話しています)はその上部構造である。これらすべては、米国の平和主義がなければ我々が知っている NATO が消滅するだけではなく、EU も深刻な形で弱体化するであろうということを意味しています。

一極支配の瞬間とその終焉:

1992年から2017年まで続いた一極体制の間、米国は国際システムにおいては群を抜いてもっとも強力な国家であり、ここ欧州でもかなりの軍事的プレゼンスを容易に維持することができました。しかし、やがて一極世界は去り、多極化した世界が到来しました。もはや、米国は世界唯一の大国ではありません。中国とロシアは今や大国となっており、これは米国の政策立案者は周囲の世界についてこれまでとは違った考え方で接する必要があることを意味します。

ヨーロッパにとって多極化が何を意味するかを理解するには、世界の三大国の間の権力配分を考慮することが不可欠です。米国は依然として世界でもっとも強力な国であるが、中国も追い上げており、現在では同等の競争相手として広くみなされています。その膨大な人口と1990 年代初頭以来の目覚ましい経済成長により、同国は東アジアの潜在的な覇権国となりました。

すでに西半球の地域覇権国である米国にとっては、東アジアか欧州で別の大国が覇権を獲得することは非常に憂慮すべき見通しとなります。ドイツと日本がそれぞれヨーロッパと東アジアの地域覇権国になるのを防ぐために、米国がふたつの世界大戦に参戦したことを思い出していただきたい。同じ論理が今日の東アジアの中国にも当てはまります。

世界秩序におけるロシアの立場:

ロシアは三大国の中ではもっとも弱い。そして、多くのヨーロッパ人が考えていることとは反対に、この機関にいる多くのヨーロッパ人もそうだと思いますが、ロシアは東ヨーロッパはおろか、ウクライナ全土さえをも制圧するような脅威ではないのです。結局のところ、この3年半はウクライナ東部の5分の1を征服することだけに費やされてきたのです。ロシア軍はドイツ国防軍ではありませんし、ロシアは冷戦時代のソ連でも、今日の東アジアにおける中国でもありません。言い換えれば、ロシアはヨーロッパの潜在的な覇権国ではないのです。

このような力の分布を考慮すると、米国にとっては中国を封じ込め、中国による東アジアの支配を阻止することに重点を置くことが戦略的な責務となります。しかし、ロシアが欧州の覇権国になる脅威ではないことを考えると、米国が欧州で重要な軍事的プレゼンスを維持する説得力のある戦略的理由はありません。実際、防衛資源をヨーロッパに集中させると、東アジアで利用できる資源が減少します。この基本的な論理は米国のアジアへの軸足を説明するものです。しかし、米国がある地域に軸足を移すということは、別の地域から軸足を外すことを意味します。そして、もちろん、私たちが方向転換しようとしているもうひとつの地域というのはヨーロッパです。

イスラエルの要因:

もうひとつ重要な側面がありますが、これは世界的な勢力均衡とはほとんど関係がなく、米国が欧州で重要な軍事的プレゼンスを維持することに関与し続ける可能性をさらに低下させます。具体的には、米国はイスラエルと史上でも例のないような特別な関係を持っています。米国内のイスラエル・ロビーの絶大な力の結果であるイスラエルとの繋がりは、米国がイスラエルを無条件で支援することを意味するだけではなく、米軍が直接的または間接的にイスラエルの戦争に関与することさえも意味します。

つまり、米国はイスラエルに相当な軍事資源を配分し続けるとともに、中東に独自の相当な軍事力を投入し続けるでありましょう。このイスラエルに対する義務が欧州の米軍を撤退させ、欧州諸国に対して自国の安全を確保するよう促すさらなる動機を生み出すのです。

肝心なのは、一極支配から多極化への移行に伴う強力な構造的力と米国のイスラエルとの特異な関係性が欧州から調停役を務める米国を排除し、NATOを無力化する可能性を秘めており、それは明らかに欧州の安全保障に深刻な悪影響をもたらすであろうという点です。

選ばれなかった道:

しかし、ほとんどすべてのヨーロッパの指導者が望むであろう米国の撤退の回避は可能です。簡単に言えば、米国がヨーロッパを深刻な形で離れるのを防ぐには、大西洋の両岸での賢明な戦略と巧みな外交が必要となります。しかし、これまでのところ、われわれが得たものはそのような状況ではありません。

代わりに、ヨーロッパと米国は愚かにもウクライナをNATOに加盟させようとした。そのことが敗北を必至とさせるロシアとの戦争を引き起こし、米国がヨーロッパを離れ、NATOが空洞化する可能性を著しく高めたのであります。この点をさらに説明しましょう。

ウクライナ戦争を理解する:

ウクライナ戦争の結果を十分に理解するには、その原因を考慮することが不可欠です。なぜならば、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した理由がロシアの戦争目的や戦争の長期的な影響について多くを示唆しているからです。

ご存知の通り、西側の一般的な見解では、ウラジーミル・プーチンこそがウクライナ戦争を引き起こした責任者であるとされています。この議論によれば、彼の目標はウクライナ全土を征服し、より大きなロシアの一部に組み込むことにあります。この目標が達成されると、ロシアは第二次世界大戦後のソ連邦のように東ヨーロッパに帝国を築くことになるでしょう。この筋書きでは、プーチンは西側にとっては致命的な脅威であり、強力に対処する必要があるとされています。要するに、プーチンは豊かなロシアの伝統にしっかりと収まる支配計画を持った帝国主義者であると見なされています。

従来の考え方への挑戦:

この話には多くの問題点があります。そのうちの五つを明確に示したいと思います。

まず第一に、2022年2月24日以前にプーチンがウクライナ全土を征服し、ロシアに組み込もうと考えていたという証拠はまったくありません。繰り返しになりますが、強調したいのは、従来の型にはまった考え方を支持する証拠は存在しないということです。この考え方の支持者たちはプーチンはウクライナを征服することが望ましい目標であると考えていた、それが達成可能な目標であると考えていたと主張しますが、その目標を追求する積りであったことを示す何かを書いたり言ったりしたということは実際に指摘することはできないのです。

私は繰り返します:プーチンはウクライナの征服が望ましい目標だと言ったことは一度もありません。それを裏付ける証拠はないのです。彼がそれを達成可能な目標と考えていたと言った証拠もありません。そして、2022年2月24日以前に彼がその目標を追求するつもりであったという証拠もありません。

この点については、議論を挑む際には容易に想像することができるように、私は従来の型にはまった見解を擁護する人たちと多くの議論をしてきました。彼らはプーチンがウクライナを人工的に作られた国家であると主張したこと、特にロシア人とウクライナ人はひとつの民族であるという見解を指摘します。これは、もちろん、多くの人たちが参照する彼の有名な2021年7月12日の記事の核心テーマでもあります。

2021年7月の記事と公に述べられているプーチンの立場:

ウクライナが人工的に作られた国家であり、ロシア人とウクライナ人はひとつの民族であるといったこれらのコメントは彼が戦争に踏み切った理由に関して何も語ってはいません。実際、私は何度も読んでみましたが、2021年7月12日に彼が書いた記事によると、彼がウクライナを征服しようとしていたという証拠はまったく見当たりません。むしろ、その記事の中で彼はまったく逆のことを述べているのです。

例えば、彼はウクライナの人々についてこう語っています。2021年7月12日の記事から引用すると、「自分たちの国を作りたいのであれば、歓迎します」と。ロシアがウクライナにどう接すべきかについては、「尊重の気持ちを持って対応するしかない」と書いています。

尊重の気持ちを持って対応するしかないのです。彼はその長い記事を次の言葉で締めくくっています。「ウクライナがどのようになるかは、その市民自身が決めることです」。これはウクライナを征服しようとしている人物の言葉には聞こえません。

2021年7月12日の同じ記事の中で、そして、ロシアがウクライナに侵攻する3日前の2022年2月21日の重要な演説において、彼は再び「ロシアはソ連解体後に形成された新たな地政学的現実を受け入れている」と書きました。彼はその同じ論点を2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻すると発表した際にも再確認しています。これらの発言はすべて、プーチンがウクライナを征服し、大ロシアに組み込もうとしたという主張とは明らかに矛盾しています。

兵力に関する問題点:

二番目に、プーチンはウクライナを征服するには十分だと言える程の兵力を持ってはいませんでした。私の推定では、ロシアは最大でも19万人の兵力でウクライナに侵攻しました。ご存知の通り、現在ウクライナ軍の司令官であるシェルスキー将軍はロシア軍の侵攻兵力を10万人と見積もっています。すなわち、ジョンは19万人で侵攻したと推定し、シェルスキーは10万人で侵攻したと見積もっているのです。

 たとえ10万人、あるいは、19万人であっても、ウクライナ全土を征服し、占領し、より大きなロシアに組み込むことなんてできるわけがない。1939年9月1日にドイツがポーランドの西半分に侵攻したことを考えていただきたい。ご存知の通り、リッベントロップ・モロトフ協定の結果としてソ連はポーランドの東部に侵攻し、ドイツは西部に侵攻しました。つまり、ドイツはポーランドの半分だけに侵攻したのです。

1939年9月1日、ドイツ国防軍はポーランドに150万人の兵士を送り込みました。ウクライナは地理的にポーランド西部の3倍以上の広さがあります。そして、2022年のウクライナの人口はドイツが侵攻した当時のポーランドのほぼ2倍でした。

シェルスキー将軍の推定で10万人のロシア軍がウクライナに侵攻したとすると、これはあくまでシェルスキー将軍の発言ですが、ロシアの侵攻部隊はポーランドに侵攻したドイツ軍の15分の1という小さな規模だったことになります。そして、その小規模なロシア軍は領土の大きさにおいても人口においてもポーランド西部よりもはるかに大きい国に侵攻したのです。

ある人はこう主張するかも知れませんし、実際にこの主張を耳にすることもよくあります。それは、ロシアの指導者たちはウクライナ軍が非常に小規模で装備も劣っており、自国の軍で簡単にウクライナ全体を征服できると考えていたというものです。しかし、これは事実ではありません。実際には、プーチンとその側近たちは、2014年に危機が最初に発生して以来、米国とそのヨーロッパの同盟国がウクライナ軍に武器を供与し、訓練していたことを十分に認識していました。

まさにその当時、モスクワがもっとも恐れていたのはウクライナが事実上NATOのメンバーになりつつあることでした。さらに、ロシアの指導者たちは、ウクライナ軍が侵攻部隊よりも大きいことを認識していました。ここで強調しておきたいのは、ウクライナ軍はロシアの侵攻部隊よりも大きかったということです。それはNATOによって武装され、訓練されており、事実上NATOのメンバーになりつつあったのです。

彼らはウクライナ部隊が2014年からドンバス地域で効果的に戦ってきたことを認識していました。ロシア側は間違いなく理解していたことでしょう。ウクライナ軍はすぐに決定的に打ち負かせるような張り子の虎ではなく、特に西側からの強力な支援を受けていることを。そして、戦争の前には、もしもロシアに侵攻された場合、西側、特に米国がウクライナを全力で支援することを明言していたことを覚えているでしょう。

初期の交渉と外交努力:

プーチンの目的は迅速に限られた領土的利益を達成し、ウクライナを交渉のテーブルに招き入れることでした。そして、実際にそれが起こりました。これが私の三つ目のポイントに繋がります。戦争が始まった直後、ウクライナではなくロシア側が戦争を終わらせ、両国間の暫定協定を調整するための交渉を開始するためにウクライナに接触しました。この動きはプーチンがウクライナを征服し、大ロシアに組み込もうとしたという主張とは直接矛盾するものであります。

キーウとモスクワの間での交渉はロシアの侵攻からわずか4日後にベラルーシで始まりました。そして、そのベラルーシでの交渉ルートは最終的にイスラエルとイスタンブールのルートに置き換えられました。入手可能な証拠によると、ロシア側は真剣に交渉しており、2014年に併合したクリミアや、おそらく、ドンバス地域を除いては、ウクライナ領土の吸収にはまったく関心がなかったことが示されています。

交渉は、当時、順調に進展していたにもかかわらず、イギリスや米国の促しを受け入れたウクライナ側が交渉から撤退したことで終了しました。ロシア側は交渉から撤退しませんでした。

第四に、戦争が始まる前の数か月間、プーチンは醸成されつつある危機に対して外交的解決策を模索していました。2021年12月17日を覚えておいていただきたい。戦争は2022年2月に始まりますが、この日は2021年12月17日です。プーチンはバイデン大統領とNATO事務総長のイェンス・ストルテンベルグの両者に書簡を送り、書面による保証に基づく危機解決策を提案しました。それは三つのことを行うというものでした。

そのひとつに、ウクライナはNATOに加盟しない。ふたつに、攻撃用兵器はロシアの国境付近に配備されない。みっつに、1997年以降東ヨーロッパに配備されたNATOの部隊と装備は西ヨーロッパ側に戻されるという内容です。

 

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プーチンの最初の要求に基づく取引が実現可能かどうかに関して人々がどのように考えるかにはかかわらず、これは彼が戦争を避けようとしていたことを示しています。その一方で、米国はプーチンと交渉することを拒否しました。戦争を避けることに関心がなかったようです。

第五に、これは私の第五の問題点であって、最後のものとなりますが、ウクライナを除けば、プーチンが他の東ヨーロッパ諸国を征服することを考えていたという証拠はひとつもありません。そして、ロシア軍はウクライナ全土を制圧するだけの規模でさえもなかったということを考えれば、バルト諸国、ポーランド、ルーマニアを征服することなどもってのほかであって、それもほとんど驚くことではありません。

さらには、ウクライナ以外の国々はすべてNATO加盟国であり、これはほぼ間違いなく米国とその同盟国との戦争を意味します。要するに、ヨーロッパでは広く信じられており、ここ欧州議会でもそうなのですが、プーチンは帝国主義者であり、長い間ウクライナ全土を征服し、その後はウクライナの西側にある国々を征服することを決意したと考えられています。しかし、利用可能な証拠のほとんどはこの見方とまったく矛盾しているのです。

紛争の根本原因:

実際、戦争を引き起こしたのは米国とそのヨーロッパの同盟国なのです。もちろん、ロシアがウクライナに侵攻して戦争を始めたことを否定するわけではありません。しかし、紛争の根本的な原因はウクライナをNATOに加えるという決定であり、ほぼすべてのロシアの指導者たちはこれを実存の脅威と見なし、排除しなければならないと考えていました。

しかし、NATOの拡大が問題のすべてというわけではありません。これはウクライナをロシア国境の西側にある国々の防波堤にすることを目指すものであって、より広範な戦略の一部であります。キーウを欧州連合に取り込み、ウクライナでカラー革命を推進することです。皆さんもオレンジ革命(訳注:2004年のウクライナ大統領選挙の結果に対して起こった抗議運動)を覚えているでしょう。あれはウクライナを西側を支持する自由主義的民主主義にするために計画されたものであって、他の二つの柱も同様です。

ここで明確にしておきたいのですが、ウクライナに対する西側のNATO戦略には三つの柱があるという点です。ひとつはウクライナへのNATO拡大、二つ目はウクライナへのEU拡大、そして三つ目はウクライナを西側を支持する自由主義的民主主義に変える政権の交代です。ロシアの指導者たちはこの政策の三つ全てを恐れていますが、もっとも恐れているのはNATOの拡大です。

プーチンが述べているように、「ロシアは今日のウクライナの領土からの恒久的な脅威に直面したままでは、安全を感じながら発展し、存在することはできない。」本質的には、彼はウクライナをロシアの一部にしようとは考えていませんでした。彼が関心を持っていたのは、ウクライナが彼が「ロシアに対する西側の攻撃の踏み台」と呼んだものにはならないようにすることでした。この脅威に対処するためにプーチンは予防戦争を開始したのです。私の意見では、この2022年2月24日に開始された行動は予防戦争でした。

NATO拡張仮説を支える証拠:

さて、NATOの拡張がウクライナ問題の主たる要因であるとする主張の根拠はいったい何でしょうか?私がこの議論の線を辿る根拠は何でしょうか?

まず、戦争前にロシアの指導者たちは、一様に、ウクライナへのNATO拡大をロシアの存続を脅かすものであると見なし、それを排除しなければならないと繰り返し述べていました。プーチンは2022年2月24日以前にこの論旨を公に何度も表明しています。国防大臣、外務大臣、副外務大臣、そしてモスクワから派遣されたワシントン駐在大使を含む他の指導者たちもウクライナ問題を引き起こす要因としてNATO拡大の重要性を強調していました。

外務大臣のセルゲイ・ラブロフは、2022年1月14日の記者会見でこの点を簡潔に述べています。これは戦争の約1か月前のことです。彼は「すべての鍵はNATOが東方に拡大しないという保証にある」と述べています。

第二に、ウクライナがNATOに加盟することに対するロシアの深い恐怖の中核は戦争が始まって以来の出来事によって示されています。例えば、先に話したイスタンブールでの交渉の際、ロシアの指導者たちはウクライナと西側諸国が永久中立を受け入れること、そして、NATOに加盟してはならないことを明確に示しました。

実際、ウクライナ側はイスタンブールでロシアの要求をたいした抵抗もなく受け入れたのです。おそらく、それ以外では戦争を終わらせることは不可能であると理解していたからでしょう。さらに最近の例では、2024年6月14日、これは今年の6月ではなく、昨年の2024年6月14日のことですが、プーチンは戦争を終わらせるためのロシア側の要求を提示しました。その核心的な要求のひとつはキーウ政府が公式にNATO加盟計画を放棄することを明言することでした。

ロシアは常にウクライナやNATOを自国の存続自体を脅かすものと見なし、あらゆる手段を使って阻止しなければならないと考えてきたため、これらの主張は驚くべきことではありません。

ロシアの脅威に対する西側の認識:

第三に、西側の多くの影響力のある著名な人物たちは、戦争前から、NATOの拡大、特にウクライナへの拡大はロシアの指導者にとっては死活的な脅威であると判断され、最終的には災厄に繋がることを認識していました。

ウィリアム・バーンズは、最近ジョー・バイデン大統領のCIA長官を務めていましたが、2008年4月にウクライナとジョージアをNATOに加盟させるとの決定が下された際には米国のモスクワ駐在大使を務めていました。彼は当時の国務長官であったコンドリーザ・ライスに非常に有名なメモを書いています。これは多くの方がご存じのことでしょう。このメモは非常に注目すべきものであるので、この場で広範に引用しておきたいと思います。

「ウクライナのNATO加盟はプーチンだけではなくロシアのエリートにとってももっとも重要なレッドラインであって、クレムリンの暗い隅々にいる荒くれ者から始まってプーチンのもっとも鋭いリベラル派の批評家に至るまで、過去2年半以上の間に主要なロシア関係者と話した中で、これをロシアの国益への挑戦として直接的に見なさないとする人は誰もいませんでした。」

NATO加盟は戦略的な挑戦状を突きつけるものとして見なされるだろう」と彼は言っています。「今日のロシアはそれに反応するだろう。ロシアとウクライナの関係は完全に凍りつくことになる。これにより、クリミアやウクライナ東部ではロシアの干渉が行いやすい土壌が生まれる。」これは2008年にビル・バーンズによって書かれたものです。

バーンズだけが2008年にウクライナをNATOに加盟させることは危険を伴うと判断していた西側の政策立案者であったというわけではありません。これはブカレストでのサミットのことです。ブカレストでウクライナをNATOに加盟させる決定がなされました。当時ドイツの首相だったアンゲラ・メルケルとフランスのニコラ・サルコジ大統領は共にウクライナをNATOに加盟させることに強く反対しました。

これが当時のメルケルの発言です。これは本当に驚くべきことです。メルケルはこう述べています。「プーチンはただそれを許すことはないだろうと私は確信していました。彼の視点からすれば、それは宣戦布告にあたるでしょう。」これはアンゲラ・メルケルの発言です。彼女は、2008年4月のブカレスト会議でウクライナがNATOに加盟を許可されるという決定は、ロシアにとって宣戦布告に等しいと見なされるだろうと言っているのです。

NATOに対するロシアの見方:

ウクライナをNATOに加盟させることを支持する人たちは、モスクワはNATOの拡大を心配する必要はないと主張しました。なぜならば、NATOは防衛同盟であり、ロシアに脅威を与えるものではないからです。当時モスクワ駐在の米国大使であったマイク・マクファウルはプーチンに対してNATOの拡大を恐れる必要はないと何度も伝えたと私に話してくれました。それは「米国」という友好的な覇権国家によって主導されており、NATOは脅威ではないと。

しかし、ロシアの指導者たちのウクライナやNATOに関する考え方はそうではありませんでした。そして、実際には彼らが何を考えているかこそが重要なのです。率直に指摘しておきますが、私にはNATOのウクライナへの拡大はロシアの存続に対する脅威ではないとする友人が何人かいるのです。これらの人たちに対する私の答えは、あなたがどう考えるかは関係ないということです。重要な点はロシア人がどう考えているかだけです。

そして、ロシアがウクライナへのNATO拡大を自国の存続に対する脅威であると見なしていることは明らかです。そしてアンゲラ・メルケルが言ったように、彼らはそれを宣戦布告と見なすでしょう。

要するに、プーチンがウクライナのNATO加盟は許容できない致命的な脅威と見なし、それを防ぐためには戦争をも辞さないという覚悟で臨んでいたことには疑いの余地がありません。そして、実際に、彼はそれを2022年2月に実行したのです。

戦争の経過:

次に、戦争の経過、戦争で起きていることについて少しお話ししましょう。イスタンブールでの交渉が失敗したのは2022年4月のことです。覚えておいていただきたい、戦争は2022年2月22日に始まり、その後、交渉が失敗したのは2022年の4月中旬です。

消耗戦:

ウクライナ紛争は消耗戦へと変貌し、実際には第一次世界大戦の西部戦線と顕著な類似点を持っています。この戦争は激しい消耗戦であり、現在すでに三年半続いています。そして、その間、皆さんもご存知の通り、ロシアは2014年に併合したクリミアに加えて、ウクライナの四つの州を正式に併合しました。

実質的に、ロシアはこれまでにウクライナの2014年以前の領土のおよそ22%を併合したことになります。そして、もちろん、それらの全ては同国の東部の5分の1に位置しています。

戦争が始まって以来、西側は戦闘に直接関与すること以外のあらゆる支援をウクライナに提供してきました。ロシアの指導者たちが自国は西側と戦争状態にあると考えているのも偶然ではありません。それにもかかわらず、皆さんもご存知の通り、トランプ大統領はこの戦争における米国の役割を厳しく制限し、ウクライナ支援の負担をヨーロッパに肩代わりさせることを決意しています。

今、ロシアは明らかにこの戦争で勝利しており、おそらく最終的に勝つでしょう。そして、私がそう考える理由は非常に簡単です。

ロシアの軍事的優位性:

消耗戦においては両陣営は相手を徹底的に疲弊させようとします。つまり、兵士の数や火力が多い方が勝利する可能性が高いのです。ロシアはこの両面において大きな優位性を持っています。例えば、シェルスキー将軍は、現在、ロシアはウクライナの3倍の兵力を戦闘に投入していると述べています。また、前線の一部ではウクライナ側はその6倍の数で囲まれていると言います。全体としての比率は3対1であり、ある地点では6対1になるとシェルスキーは語っています。

実際、ウクライナ側の数多くの報告によると、ウクライナ軍は前線を防衛するだけの兵力が十分ではありません。彼らは戦闘部隊を前線に密集させることができず、ロシア軍にその状況を利用されたり、突破されたりする可能性のある空白地帯を残さざるを得ません。

火力に関しては、この戦争のほとんどの期間にわたって消耗戦では極めて重要な砲兵においてロシア側が優位に立っており、その優位性は報告によると3対1、7対1、あるいは、10対1とも言われています。

また、ロシアは非常に精密な滑空爆弾を大量に保有しており、ウクライナの防衛に対して致命的な効果を発揮してきました。キーウには滑空爆弾がありません。ウクライナには非常に効果的なドローン部隊があることは疑いようがありません。最初はロシアのドローン部隊よりも効果的でしたが、過去1年で状況は逆転し、現在ではロシア側がドローンだけではなく、砲兵や滑空爆弾においても優位に立っています。

ウクライナの人材危機:キーウ政府が直面している人材問題には現実的な解決策がないことを強調しておくことが重要です。ウクライナはロシアよりも人口が遥かに少なく、徴兵逃れや脱走の問題に悩まされています。報告によれば、10月には2万人のウクライナ兵が前線から脱走したとされています。これは極めて注目すべき数字です。

さらに、ロシアは堅固な工業基盤を持ち、大量の兵器を生産しているのに対して、ウクライナの工業基盤は貧弱です。ウクライナはこれを補うために西側諸国に兵器の供給を大きく依存していますが、西側諸国にはロシアの生産量に追いつくために必要な製造能力は不足しています。さらに悪いことに、トランプ大統領は米国からのウクライナへの兵器供給を遅らせています。

結論的には、ウクライナは兵力も兵器も大きく劣っており、この状況は消耗戦においては致命的です。

この戦場における厳しい状況に加えて、ロシアは弾道ミサイルや巡航ミサイル、ドローンなどで膨大な在庫を持ち、ウクライナ領の奥深くに攻撃を仕掛け、重要なインフラや兵器庫を破壊しています。確かに、キーウにはドローンを用いてロシア国内の目標を攻撃する能力はありますが、モスクワが持つ攻撃能力には到底及びません。

さらには、ロシア領内の奥深くにある標的を攻撃しても、この戦争の決着が決まりつつある戦場で起こっていることに対してはほとんど何の影響も与えません。

平和の展望:

では、平和的解決の見通しはどうでしょうか? 2025年を通じて、戦争を終わらせるための外交的合意を見い出すことについて多くの議論がなされてきました。この種の会話はトランプ大統領がホワイトハウス入りする前からウクライナ戦争を解決すると約束したことが大きな要因です。そして、ホワイトハウスに入る前に解決できなければ、引っ越してすぐにでも解決する積りでした。

明らかに彼は失敗に終わった。実際、成功にすら近づいてはいません。悲しい現実ですが、意味のある和平合意を交渉する望みは全くありません。この戦争は戦場で決着をつけることになりそうで、ロシアは醜い勝利を収める可能性が高い。

ここでは私は言葉を慎重に選んでいます。彼らは、一方にロシア、もう一方にはウクライナ、ヨーロッパ、米国がいる中で「凍結された紛争」という醜い勝利を収めることになるでしょう。さらに、もう少し説明しましょう。

和解できない対立:

戦争を外交的に解決することは不可能です。なぜならば、相手側と解決し難い相違があるからです。モスクワ政府はウクライナが中立国家でなければならないと主張しており、これはウクライナがNATOに加盟できないだけでなく、西側からの意味のある安全保障も受けられないことを意味します。ロシア側はこのことを強く主張しています。

ロシアは、また、ウクライナと西側に対して、クリミアの併合と彼らが東ウクライナで併合した4つの州を認めることを要求しています。そして、第三の要求はキーウ政府が自国の軍事規模をロシアにとって意味のある軍事的脅威とならない程度に制限することです。

予想通り、ヨーロッパ、特にウクライナはこれらの要求を断固として拒否しています。ウクライナはロシアに領土を譲ることを拒否しており、それは理解できることです。一方で、ヨーロッパとウクライナは引き続きウクライナをNATOに加盟させるか、少なくとも西側がウクライナに実質的な安全保障を提供できるようにすることを推進しています。モスクワ政府を満足させるまでウクライナを武装解除することも、彼らにとっては議論の余地のない非現実的な案です。

ロシアの立場とウクライナ・西側連合の立場との間には大きな対立があって、和平合意を生む形で調和することは不可能です。したがって、この戦争は戦場で決着が着けられることになるでしょう。

私はロシア人が勝つと信じており、今も勝利に近いと考えていますが、ロシア人がウクライナ全土を征服するような決定的な勝利を収めることはないと思います。その点ははっきりさせておきたいです。

代わりに、私が言ったように、ロシアは2014年前のウクライナの20%から40%程度を占領し、ウクライナはロシアが征服しなかった領土を抱える機能不全の小規模国家として残存するといった醜い勝利になる可能性が高いです。

モスクワがウクライナ全土を征服しようとする可能性は低いです。ウクライナの西側60%はロシアの占領に強く抵抗し、占領軍にとっては悪夢となる可能性があるウクライナ人たちでいっぱいであるからです。

つまり、ウクライナ戦争の予想される結果は、ロシア大国とヨーロッパに支えられた残存ウクライナとの間での停滞した紛争になるということです。

ウクライナへの影響:

次に、ウクライナ戦争の影響について、まずウクライナ自身への影響、次にヨーロッパとロシアの関係性への影響、そして、最後にヨーロッパ内部および大西洋横断的な関係性への影響について考察します。

まずウクライナから始めましょう。ウクライナは事実上破壊されました。すでにかなりの領土を失っており、戦闘が終わる前にさらに領土を失う可能性が高いです。その経済はボロボロで、近い将来の回復の見込みはありません。

そして私の計算によれば、ウクライナはおおよそ100万人の犠牲者を出しており、これはどの国にとっても衝撃的な数字ですが、人口減少のスパイラルにあると言われる国にとっては特に驚異的な数値です。ロシア側も多くの代償を払いましたが、ウクライナほどの損害は受けていません。

ヨーロッパは既に注ぎ込まれたコストと西側に蔓延する強い反ロシア感情のために、当面の間は分断されたウクライナと同盟関係を維持する可能性が高いでしょう。しかし、ヨーロッパとウクライナの継続的な関係がキーウにとって有利に働くことは二つの理由からあり得ません。

第一に、それはモスクワに対してウクライナをロシアにとって脅威とはならないように、さらには、NATOやEUに加入する立場にはならないように経済的・政治的混乱を引き起こさせる動機を与えてしまうでしょう。

ヨーロッパがどんな状況でもキーウを支援する姿勢を示しているのを見て、ロシアは戦争が続いている間にできるだけ多くのウクライナ領土を征服し、紛争が停滞した後に残るウクライナの残存国家の脆弱性を最大化しようとする動機が生まれます。

換言すると、プーチンの立場で考え、ヨーロッパが近い将来にわたってウクライナ支援に深くコミットすると信じるならば、オデッサを奪い、ハルキウを奪い、その間のすべての州をも手に入れることに強い関心を抱くことでしょう。ウクライナ領土の40%を占領したいのです。

プーチンはウクライナを破壊するためにできることは何でもしたいと思っており、その後もウクライナを弱体のままにしておきたいと考えることでしょう。なぜならば、ヨーロッパがウクライナへの支援をすることを理解しており、彼らはロシアに対して問題を引き起こすことに関心を持つであろうからです。

ですから、私がここで言いたい基本的なポイントは、ヨーロッパがウクライナと緊密な関係を維持することはウクライナにとって有利にはならないということです。

(第2部へ続く)

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これで第
1部の仮訳が終了した。

ミアーシャイマー教授の論理的で、組織だった講演内容は私ら素人が理解しているウクライナ戦争に関する断片的な知識を徹底的に再構成してくれ、平易な言葉で雄弁に補完してくれます。読んでいて、そのことがひしひしと感じられるのです。

2008年のブカレストでのサミットではNATO参加国にウクライナやジョージアのNATO加盟を認めるよう米国が強要した。ウィリアム・バ―ンズ駐ロ米国大使が当時の国務長官であったコンドリーザ・ライスに書いたメモは、ウクライナのNATO加盟はロシアに戦略的な挑戦状を突きつけるものとして見なされるだろうと述べた。また、メルケル首相やサルコジ大統領らはウクライナのNATO加盟に反対した。メルケル首相は、これはロシアに対する宣戦布告だとさえ述べたという。

こういった事実は、ウクライナ戦争は巷で信じられているような「ロシアが挑発もなしにウクライナへ侵攻した」というのではなく、現実には、10年も20年も前から西側は周到にウクライナ軍を強化し、ロシアの戦略的敗北を計画し、それらの行動こそがロシアによるウクライナ侵攻を誘発させたものであることを明白に示している。

まだ後半が残っているので、この段階で総括することは控えておこうと思う。

なによりも、急速に変化しているウクライナ情勢の本質を見失わないように心がけたいと思う。

2部をお楽しみに。


参照:

注1:Transcript: John Mearsheimer Addresses European Parliament on “Europe’s Bleak Future”: By Pangambam S, Nov/21/2025


<転載終了>