https://ameblo.jp/drminori/entry-12964455970.html
<転載開始>
マグネシウムは、筋肉や神経の働き、骨の健康などに関わる大切なミネラルです。
最近、このマグネシウムが腸内細菌にも影響する可能性を調べた研究が報告されました。
今回紹介するのは、2025年に The American Journal of Clinical Nutrition に掲載された論文です。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002916525005271
タイトルは
Magnesium treatment increases gut microbiome synthesizing vitamin D and inhibiting colorectal cancer: results from a double-blind precision-based randomized placebo-controlled trial
~マグネシウム投与は腸内細菌叢におけるビタミンD合成を増加させ大腸がんを抑制する:二重盲検精密医療型ランダム化プラセボ対照試験の結果~
というもので、マグネシウム補充が、ビタミンD産生や大腸発がん抑制に関係する可能性のある腸内細菌を増やすかどうかを調べています。
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【背景】
Carnobacterium maltaromaticum(カルノバクテリウム・マルタロマティカム)および Faecalibacterium prausnitzii(フェカリバクテリウム・プラウスニッツィイ)は、マウスにおいて大腸がんの発がんを抑制するためのビタミンDの腸内新規合成(de novo合成)を誘導する。
マグネシウム(Mg)投与は循環血中ビタミンDを増加させ、Mgの恒常性はTRPM7遺伝子型に依存する。
【目的】
Mg投与が腸内の C. maltaromaticum および F. prausnitzii を増加させ、その効果がTRPM7多型によって異なるという仮説を検証することを目的とした。
【方法】
「大腸がんの個別化予防試験(Personalized Prevention of Colorectal Cancer Trial)」は、240名の参加者を投与群とTRPM7遺伝子型の両方に基づいてランダムに割り付けた、二重盲検・精密医療型ランダム化比較試験である。
糞便・直腸スワブ・直腸粘膜の検体を採取した。
【結果】
試験を完了した239名のうち、有効なマイクロバイオームデータが得られた226名(投与群 n = 112、プラセボ群 n = 114)を解析対象とした。
投与と TRPM7 遺伝子型との交互作用は、直腸スワブにおける C. maltaromaticum(P = 0.001)および F. prausnitzii(P = 0.02)においてのみ有意であった。
ミスセンス変異を持たないTRPM7遺伝子型による層別解析では、Mg投与群はプラセボ群と比較して、直腸スワブにおける C. maltaromaticum の存在量を有意に増加させた(0.217 ± 0.615(23.01%)対 –0.065 ± 0.588(–6.30%);P = 0.006)。同様に F. prausnitzii の存在量も有意に増加した(0.105 ± 0.817(2.13%)対 –0.095 ± 0.856(–1.92%);P = 0.04)。
C. maltaromaticum に対する効果は、多重比較補正後も維持された(すべての検体種および遺伝子型にわたる C. maltaromaticum の Q = 0.05)。
TRPM7 ミスセンス変異を有する者では、直腸スワブにおいて Mg 投与はプラセボと比較して C. maltaromaticum を減少させたが、F. prausnitzii は変化しなかった(–0.065 ± 0.511(–6.54%)対 0.133 ± 0.503(13.30%);調整後 P = 0.04)。
この効果は偽発見率補正後には維持されなかった。
Mg 投与の直腸スワブにおける C. maltaromaticum への効果は主に女性において認められ、投与と遺伝子型の交互作用は有意なままであった。
【結論】
TRPM7 機能が正常な(ミスセンス変異を持たない)個人において、Mg 補充は C. maltaromaticum および F. prausnitzii の存在量を増加させる。
■Carnobacterium maltaromaticum(C. maltaromaticum)
・乳酸菌の一種で、腸内に生息するグラム陽性の通性嫌気性細菌
・腸内でビタミンDをde novo合成(日光なしに腸粘膜局所でビタミンDを産生)する能力を持つ
・マウス実験でF. prausnitziiと協調して大腸がんの発生を抑制することが確認されている
・マグネシウム補充により、TRPM7機能が正常な人では有意に増加(+23.01%)
・女性でより顕著に増加する傾向があり、エストロゲンとの関連が示唆されている
・抗菌・抗腫瘍活性を持つバクテリオシン(細菌性抗菌ペプチド)を産生するとの報告もある
■Faecalibacterium prausnitzii(F. prausnitzii)
・腸内細菌叢の中で最も豊富に存在する細菌の一つで、健康な腸の指標とされる短鎖脂肪酸産生菌
・酪酸(butyrate)を産生し、腸粘膜バリアの維持・抗炎症作用を発揮する
・C. maltaromaticumと協調して腸内でのビタミンD合成を促進し、大腸がん発生を局所的に抑制
・マグネシウム補充でTRPM7機能正常者では有意に増加(+2.13%)
・一方、TRPM7ミスセンス変異保有者では逆に減少するという相反する結果も報告されている
・炎症性腸疾患(IBD)・過敏性腸症候群(IBS)の患者では顕著に減少していることが知られている
■TRPM7遺伝子型
・TRPM7(Transient Receptor Potential Melastatin 7)はマグネシウム(Mg²⁺)およびカルシウム(Ca²⁺)の細胞内取り込みを調節するイオンチャネル兼キナーゼ(二機能性タンパク質)をコードする遺伝子
・体内のマグネシウム恒常性の維持に中心的な役割を担う
・ミスセンス変異(アミノ酸置換を伴う塩基配列の変異)の有無によって、マグネシウムの細胞内取り込み効率が異なる
・女性においてエストロゲンがMgを循環血中から細胞内へシフトさせる作用があるため、TRPM7との交互作用が特に女性で顕著に現れる
・本遺伝子多型の確認により、マグネシウム補充の効果が「誰に・どの程度」期待できるかを予測する「精密医療(precision medicine)」的アプローチが可能になる
◆この研究が明らかにしたこと
本研究はVanderbilt大学が実施した二重盲検・精密医療型のランダム化比較試験(PPCCT)で、240名を対象に12週間のマグネシウム補充介入を行ったものです。
MDPIマグネシウムは2つの独立した経路で大腸がん予防に働くことが示されました。
経路A(腸内細菌経由)
マグネシウム補充により、大腸がん抑制に関与する2種類の善玉菌(Carnobacterium maltaromaticum と Faecalibacterium prausnitzii)が増加し、これらの菌が腸内で局所的にビタミンDを合成して大腸がんの発生を抑制することが示されました。
血液に入らず腸内だけで作用する「局所ビタミンD」という新しい概念です。
経路B(血中ビタミンD経由)
以前の研究でも示されているとおり、マグネシウムはビタミンDの合成・代謝酵素を活性化し、不足している人では血中ビタミンDを上昇させ、過剰な人では低下させるという「サーモスタット」のような調節機能を持ちます。
個人差について(精密医療の視点)
TRPM7遺伝子型(マグネシウム・カルシウムの調節に関わる遺伝子)によって効果が大きく異なり、TRPM7機能が正常な人では善玉菌が増加して大腸がん抑制効果が得られる一方、機能が低下した人では逆にF. prausnitziiが減少するという相反する結果も見られました。
また女性においてより顕著な効果が観察されており、これはエストロゲンがマグネシウムの細胞内取り込みを促進する役割を担っている可能性が示唆されています。
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マグネシウムが重要なミネラルであることはブログでも発信してきました。
ビタミンDを摂取しても血中ビタミンD濃度が上がらない人はマグネシウムの不足を疑います。
非活性型ビタミンDを活性型ビタミンDに変換するのにマグネシウムが必要だからです。
マグネシウムは300種類以上の体内での酵素反応の関わっている重要なミネラル。
不足するとあらゆる代謝が狂ってしまう。
ビタミンDとマグネシウムの関係について腸内細菌を経由して腸内でビタミンDを合成するのを促進することは驚きでした。
それでは「マグネシウムで大腸がん予防」と言っていいのか?
ここはとても大切です。
この論文のタイトルには「大腸がんを抑制する」という言葉が入っていますが、今回の研究で直接調べたのは、大腸がんの発症率ではありません。
調べたのは、マグネシウム補充によって、特定の腸内細菌が増えるかどうかです。
そのため、この研究だけで
「マグネシウムを飲めば大腸がんが予防できる」
とは言えません。
より正確に言うなら、
マグネシウム補充によって、TRPM7の機能が保たれている人では、ビタミンD産生や大腸発がん抑制に関係する可能性のある腸内細菌が増えることが示された
ということになります。
またマグネシウムというと便秘薬のマグネシウムを想像する方が多いかもしれませんが、全くの別物です。
便秘に対して酸化マグネシウムが使われることがありますが、これは腸内で吸収されにくく、だからこそ緩下剤として使われるわけです。
だから便秘薬としてマグネシウムを飲んでいる人に、そのまま同じ効果があると考えるのは間違い。
今回の研究は、マグネシウム補充が、ビタミンD産生や大腸発がん抑制に関係する可能性のある腸内細菌に影響するかを調べたものです。
結果として、TRPM7の機能が保たれている人では、マグネシウム補充によって C. maltaromaticum と F. prausnitzii が増える可能性が示されました。
特に C. maltaromaticum の増加は、より信頼性の高い結果として報告されています。
ただし、この研究は「マグネシウムで大腸がんが減る」と証明したものではありません。
大腸の健康を守るためには、サプリだけに頼るのではなく、食事、排便習慣、運動、そして必要なタイミングでの大腸内視鏡検査が大切です。
今回の論文は、マグネシウム、ビタミンD、腸内細菌、大腸がん予防
というテーマが、今後さらに研究されていく可能性を示した興味深い報告と言えます。
臨床的な意義としては「マグネシウムは単なる栄養素ではなく、腸内環境を通じた大腸がん予防薬としての可能性を持つ」と言えるでしょう。
マグネシウムの摂取方法として
・お風呂にエプソムソルトやにがりを入れる
・マグネシウムクリームを塗る
・サプリメントでマグネシウムを摂る
の3つがありますが、サプリメントの中身(成分)をよく確かめましょう。
酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムは「下剤」として用いられるもので、体内にほとんど吸収されず便になってしまいます。
クエン酸マグネシウムやリンゴ酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウムなどを選ぶようにしましょう。
私はマグネシウムの粉末サプリを毎日摂取しています。
ヨーグルト味でとっても美味しいので苦痛なく続けられます![]()
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