みのり先生の診察室さんのサイトより
https://ameblo.jp/drminori/entry-12974756097.html
<転載開始>

医師向けサイトに、非常に重要な記事が掲載されていました。

 

 

執筆されたのは、整形外科医であり、長年にわたって再生医療の安全性に警鐘を鳴らしてこられた川口浩先生です。

記事のタイトルは、

「世界に告発『iPS製品は極めて危険な治療法』」

という、かなり衝撃的なもの。

ただし、川口先生が言いたいのは、

「iPS細胞の研究はすべて危険だから、やめるべきだ」

という単純な話ではありません。

問題は、十分な安全性を確認できていない段階で、治療として患者さんに使われ始めようとしていることです。

今日は、この記事の内容を一般の方にも分かるようにご紹介したいと思います。

わずか7人、8人の試験で仮承認

 

2026年3月、iPS細胞を使った2つの再生医療製品が、再生医療等製品の早期承認制度によって仮承認されました。

一つは、パーキンソン病に対する治療。

もう一つは、重症心不全に対する治療です。

新しい治療法に希望を抱く患者さんは多いでしょう。

特に、これまで有効な治療法が限られていた病気であれば、

「iPS細胞で治るかもしれない」

と言われたら、期待するのは当然だと思います。

しかし、問題はその臨床試験の規模です。

パーキンソン病の治療は、患者さんわずか7人で、観察期間は2年。

重症心不全の治療は、患者さんわずか8人で、観察期間は1年。

しかも、いずれも比較対象となる対照群のない試験だったといいます。

つまり、

治療を受けなかった人と比べて本当に効果があったのか

症状の変化が治療によるものなのか、自然経過なのか

重い副作用がどの程度起こるのか

何年後かに問題が出ないのか

そうしたことが十分に分からないまま、仮承認されたということです。

 

 

7〜8人では、まれな副作用は分からない

 

例えば、重い副作用が100人に1人の割合で起こるとします。

7人や8人だけを調べても、たまたま1人も起こらない可能性があります。

1000人に1人の副作用であれば、なおさら分かりません。

また、がん化や免疫異常のように、数年後、あるいはさらに長い時間がたってから現れる問題もあります。

観察期間が1〜2年では、

「今のところ大きな問題は見つかっていない」

とは言えても、

「安全である」

とは言えません。

この違いは、とても大きいと思います。

 

 

 iPS細胞には従来の再生医療とは違うリスクがある

 

再生医療という言葉を聞くと、

「自分の細胞を使うのだから安全」

「体に優しい先進医療」

というイメージを持つ人も多いかもしれません。

しかし、iPS細胞は、普通の体細胞をそのまま使うわけではありません。

成熟した細胞に遺伝子を導入し、いったん未分化な状態に戻して作ります。

そして、そこから神経細胞や心筋細胞などに変化させて治療に使います。

非常に画期的な技術である一方、人工的な操作を加えているからこそ、独特の問題があります。

川口先生の記事では、次のようなリスクが指摘されていました。

・遺伝子を導入することによる異常
・ゲノムの不安定性
・細胞の性質を決める仕組みの異常
・未分化な細胞が混じる可能性
・がんに関係する遺伝子異常
・腫瘍やテラトーマができる可能性

未分化な細胞というのは、さまざまな細胞に変化できる能力を持つ細胞です。

それは再生医療にとって大きな利点ですが、見方を変えれば、制御を失った時に想定外の組織や腫瘍を作る可能性があるということでもあります。

 

 

他人のiPS細胞」を使う問題

 

さらに今回の治療では、患者さん自身の細胞ではなく、他人由来のiPS細胞が使われます。

他人の細胞を体内に入れれば、当然、免疫の問題が起こり得ます。

臓器移植でも、他人の臓器を移植すると拒絶反応が起こるため、免疫抑制剤が必要になります。

iPS細胞由来の製品でも、

・免疫による拒絶反応
・NK細胞による攻撃
・免疫抑制剤による感染症
・免疫抑制による発がんリスク
・細胞を大量培養する過程で起こる遺伝的変化
・製品ロットごとの品質のばらつき

などが問題になります。

こうしたことを考えると、

わずか7〜8人。
観察期間1〜2年。


という試験だけで、長期的な安全性を判断することは困難でしょう。

 

 

有効性が「確認」ではなく「推定」でも承認される

 

日本には、再生医療等製品の早期承認制度があります。

この制度では、効果が厳密に確認されていなくても、「有効性が推定される」という段階で、条件や期限を付けて承認することができます。

難病に苦しむ患者さんへ、少しでも早く新しい治療を届ける。

その考え方自体は理解できます。

しかし、安全性と有効性が十分に確認されていない製品を、実際の患者さんに使いながらデータを集めることになると、話は別です。

患者さんは、治療を受けているつもりでも、実質的には大規模な検証の一部になっている可能性があります。

しかも、本承認前の段階から、公的医療保険や高額療養費制度が使われることになります。

つまり、国民が支払っている保険料や税金が、十分な検証を終えていない治療に投入されるのです。

 

 

1回5000万円を超える高額治療

 

川口先生の記事によると、今回のiPS製品はいずれも、5000万円を超える高額な薬価が付けられたとのことです。

新しい治療法の研究開発に費用がかかることは分かります。

しかし、

安全性が十分に分からない

効果も限られた人数でしか確認されていない

長期的な結果も分からない

 

その段階で、5000万円を超える公的医療費を投入してよいのでしょうか。

高額だから悪いという話ではありません。

本当に命を救い、長期的な効果があり、安全性も確認されているのであれば、高額な治療にも意味はあります。

問題は、その価格に見合うだけの科学的根拠があるのかということです。

 

 

これまで仮承認された製品には失効したものもある

 

川口先生は、これまで再生医療早期承認制度で仮承認された製品についても検証しています。

その中には、すでに承認が失効した製品もあります。

つまり、期待されて承認されたものの、その後、十分な有効性を示せなかった製品があるということです。

それでも、製品が市場に出ている間は、公的医療費が使われます。

患者さんは「国が承認した治療」と聞けば、効果と安全性が十分に確認されていると思うでしょう。

けれども、仮承認と本承認は同じではありません。

この違いが、患者さんにきちんと説明されているのかも気になります。

 

 

批判的な意見が学術誌に掲載されにくい現実

 

川口先生は、今回のiPS製品の問題を国際的な学術誌に投稿しようとされました。

ところが、幹細胞分野の有力誌では、iPS細胞そのものの生物学的な問題を削除し、承認制度の問題だけに限定するよう求められたそうです。

修正して再投稿したものの、最終的には掲載を拒否されました。

その後、別の国際誌に投稿し、ようやく掲載されたとのことです。

私はこの部分にも大きな問題を感じました。

科学は、本来、賛成意見も反対意見も公開し、データをもとに検証するものです。

「夢の技術だから批判してはいけない」

「国家プロジェクトだから否定的な意見は掲載しない」

そんな空気があるのだとしたら、それは科学ではありません。

 

 

「期待」と「安全性」は分けて考えるべき

 

iPS細胞は、日本が世界に誇る画期的な技術です。

将来、さまざまな病気の治療に役立つ可能性があります。

だからこそ、私は慎重であるべきだと思います。

期待が大きければ大きいほど、都合の悪いデータに目をつぶってはいけない。

未知のリスクを軽く扱ってはいけない。
患者さんの希望を利用してはいけない。

研究を否定することと、未完成の治療を急いで患者さんに使うことへ疑問を呈することは、全く別です。

 

 

「承認されたから安全」とは限らない

 

患者さんにぜひ知っておいてほしいのは、

国が承認したから、十分に安全性が確認されているとは限らない

ということです。

特に「条件付き承認」「期限付き承認」「仮承認」という言葉が付いている場合は、

・何人で試験されたのか
・比較対象はあったのか
・何年間観察されたのか
・どのような副作用が想定されるのか
・長期的な安全性は分かっているのか
・本当に症状や予後が改善したのか

を確認する必要があります。

「最新治療」
「夢の治療」
「世界初」

という言葉だけで判断してはいけません。

 

 

最後に

 

川口先生の記事を読んで、改めて感じました。

医学は期待や権威で進めるものではありません。

多数決でもありません。

データと検証によって進めるものです。

新しい技術であればあるほど、慎重に評価しなければなりません。

治療を急ぐあまり、安全性の確認を後回しにすれば、その代償を払うのは研究者でも行政でもありません。

実際に治療を受ける患者さんです。

iPS細胞に大きな可能性があることと、現時点のiPS製品が十分に安全であることは同じではありません。

期待するからこそ、冷静に。
希望があるからこそ、慎重に。

そして何より、患者さんの命と安全を最優先に考えてほしいと思います。


※この記事は、川口浩先生が医師向けサイトに寄稿された論考の内容を、一般の方向けに要約・解説したものです。川口先生は、現在すでに重大な健康被害が多数確認されていると断定しているのではなく、少人数・短期間の試験では腫瘍化や免疫反応などの長期的リスクを評価できないと警告されています。


<転載終了>