荒川央 (あらかわ ひろし)さんのサイトより
https://note.com/hiroshi_arakawa/n/n62c3e5840307
<転載開始>

モデルナ社のインフルエンザワクチンであるmFLUSIVA (mRNA-1010) が2026年8月5日に米国でFDA承認を受け、季節性インフルエンザを対象とした世界初のmRNAワクチンとなりました。 日本においては現時点では未承認です。米国内での承認の対象は50歳以上の成人であり、50〜64歳を対象としては従来型の承認、65歳以上では迅速承認 (臨床ベネフィットの確認が条件の市販後試験) となっています。

今回の記事は、このワクチンの治験の問題点についての考察になります。

プラセボとの比較ではない

まず、この治験ではプラセボ対照が無く、既存の標準用量不活化ワクチンとの比較を行なっています。したがって、絶対的な有効性 (本当に何をどれだけ防げるのか) や、背景発生率に対する絶対的な安全性が測定できていません。そもそも比較対象である従来型のインフルエンザワクチン自体その有効性が不安定なものであり、謳われている重症化や死亡の予防の根拠は弱いものです。そのため「比較対象である従来型のワクチン自体の根拠が弱い」という根本的な問題と限界を抱えた構造になっているのです。

有効性の判定はPCR検査

この治験での主要評価項目はインフルエンザ様疾患 (ILI) であり、その有効性とは、PCR検査 (RT-PCR) による感染の判定に基づくものです。しかしながらPCRでは偽陽性が問題になる事があり、とりわけ発症率自体が低い状況下では、少数の偽陽性が相対有効率に影響し得ます。また、PCRで確認されたインフルエンザ様疾患は、検査値だけではなく実際に症状が現れた状態です。本来インフルエンザワクチンの効果として検証すべき重要な項目としては、入院、重症化、死亡があげられますが、今回の治験で主に確認されたのは、より軽度な「風邪のような症状」についてのみでした。入院や救急受診は追加の解析に留まっており、実際に死亡をどの程度防ぐかについては、有効性の判定項目となっていません。

相対有効率は26.6%、絶対リスク低減はわずか0.73%

治験では約4万人 (無作為化約40,700人、有効性解析は約40,300人) の50歳以上を対象にしたインフルエンザ様疾患の発症率はmRNAワクチン群で2.04% (411/20,179)、対照群 (標準用量不活化ワクチン) では2.77% (557/20,124) でした。相対ワクチン有効率 (rVE) は26.6% (95% CI: 16.7%–35.4%)¹ です。これは「インフルエンザ様疾患の発症を抑える率が既存の標準用量ワクチンより26.6%優れている」という意味です。

上述のように発症率は不活化ワクチン (対照群) で2.77%、mRNAワクチン群で2.04%ですので、実際の絶対リスク低減 (ARR) 率はわずか0.73%です²。これは、1人のインフルエンザ様疾患を防ぐために必要な接種人数 (NNV; Number Needed to Vaccinate) が137人であるという事であり³、つまり1000人に標準用量不活化ワクチンの代わりにmRNAワクチンを接種すると、インフルエンザ様疾患が7.3人減る事を意味します。言い換えると、たった7.3人の「風邪のような症状を減らす」ために1000人もの人達へのmRNAワクチンの接種が必要になるという話なのです。

¹     rVE = 1-2.04%/2.77% = 26.4%。26.6%から少しずれているのは人時法による追跡期間の補正のため。
²     ARR = 不活化ワクチン群の発症率 - mRNAワクチン群の発症率 = 2.77%-2.04% = 0.73%
³     NNV = 1/0.73% = 137

65歳以上は迅速承認(従来型承認には不足)

高齢者では、通常の標準用量ではなく高用量のワクチンや免疫をより強く刺激する成分を加えたワクチンが推奨される事も多いです。しかし、この治験での主な比較対象は標準用量ワクチンです。高用量ワクチンとの比較では、発症をどれだけ防いだかは示されておらず、単に接種者の抗体の上がり方を観察したに過ぎません。また、入院、重症化、死亡に関しては、試験の合否を決める主な判定項目にはなっていません。これらの重要であるはずの事項に関しては参考程度の追加解析に留まっており、結局のところはっきりとした優位性は示されていません。本来インフルエンザワクチンで重要なのは重症を防ぐ事であるはずにも関わらず、その点における明確な差は見られませんでした。

主な副反応はmRNA群で約2〜3倍

ワクチン接種後の短期での副反応の比較については、注射部位痛 (約2.2倍 (65.8%/29.8%))、倦怠感 (約2.2倍 (45.1%/20.3%))、頭痛 (約2.1倍 (37.8%/18.0%))、筋肉痛 (約3.1倍 (35.4%/11.6%)) の項目においてmRNA群の方がより強かったという報告が出ています。これは不活化ワクチンと比べ明らかに悪い数値です。また、全死因死亡率に関してはほぼ均衡 (約0.3%同士) していましたが、特筆すべき点として「原因不明死」や突然死関連の用語ではmRNA群の方が多かった事があげられます。しかし、そうした結果にも関わらずFDAは「関連はありそうにない」として結論づけています。この不均衡とは統合安全性データから生じており、実際、接種直後に接種者が突然死したケースであっても剖検はほとんど行われていません。そのため、このような状況では因果関係が永久に「不明」のままにされてしまう事態も起き得るでしょう。

「接種が推奨される人たち」への安全性、有効性が検証されていない

また、この治験では免疫不全者、全身免疫抑制薬使用者、虚弱な高齢者、臨床的に不安定な基礎疾患を持つ人を除外していますが、そもそもそういった人々こそがインフルエンザで最も重症化や死亡リスクが高い層です。結果として、実世界における「最も接種が推奨される人たち」への安全性、有効性がほとんど検証されていません。つまり「許容可能」とされた安全性が、本当に必要な層に外挿できるという保証もないまま、結果的に健康バイアスが強く影響するという歪んだ構造の治験デザインとなっているのです。

長期の副作用は不明

今回のmFLUSIVAの安全性データとは主に接種後約6か月 (中央値181〜198日) であり、一部試験でも最長1年程度のものです。そのため、承認直後の現時点においては接種後の複数年の経過を見たデータは無く、また毎年接種を続けた場合などに発生する長期副作用を否定できる根拠は見当たりません。

参考文献
1) Leroux-Roels et al. (2026) Efficacy and Safety of an mRNA Seasonal Influenza Vaccine in Adults. N Engl J Med 394:1803-1813.
2) ClinicalTrials.gov
https://clinicaltrials.gov/study/NCT06602024
3) FDA VRBPACブリーフィング文書
https://www.fda.gov/media/193130/download



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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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